今回の「上質なことば」は、川端康成の『雪国』を取り上げます。知らぬ人とてない、名作中の名作であります。
『十三四の女の子が一人石垣にもたれて、毛糸を編んでいた。山袴に高下駄を履いていたが、足袋はなく、赤らんだ素足の裏に皸が見えた。傍の粗朶の束に乗せられて、三歳ばかりの女の子が無心に毛糸の玉を持っていた。小さい女の子から大きい女の子へ引っぱられる一筋の灰色の古毛糸も暖かく光っていた。』
学生の頃、私は川端作品に全く興味がなく、本に触れることすらありませんでした。大学4年の同期生に、一人川端作品が好きで、いつも文庫本を手放さない男がいました。そんな刺激に乏しく、単調な内容のものが面白いのか?と、尋ねたとき、彼は、「なにげない日常の出来事を、淡々と描いているところが好きなんだ」と答えました。
たぶん20年ぶりぐらいで『雪国』を読み返したとき、作品中に満ち溢れる細密な自然描写や、かなり緊迫感のある男女の会話を、ようやく落ち着いて”知る”ことができた、自分自身の”精神的代謝”を知ることとなりました。
学生時代の彼が、私に対して「感受性のない奴め!」と内心思いながら、私の意見をさらりとかわしたであろう、その受け答えについても、ずいぶん長い時間を経て知らされることとなったのです。
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