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大杉谷・与八郎谷出合の連滝。
(川崎さんによると、これは本当の"与八郎滝"ではないらしい)


 8月から11月前半にかけて幾つか確保していた連休は、ことごとく天気に泣かれることになった。(コンディション云々せねばならぬのは、自らの実力のなさと言えばそうなるのだが・・・)。積雪の知られを聞いて、もう雪国の沢のシーズンは終わってしまった。

 10月31日~11月2日の三連休は、地元の谷に戻ろうということになり、『秘瀑』を見て前から気になっていた大杉谷・与八郎谷の溯行と、それだけでは勿体ないので、光滝登攀を絡めた計画を立ててみた。与八郎谷は、『秘瀑』に載せられている厳めしい滝々の写真に目を惹き調べて見たのだが、アプローチが面倒のせいか溯行の記録に当たらなかったので、興味を持っていた。



イメージ 2 まず、初日はベースとなる堂倉避難小屋へのアプローチと、光滝登攀。大台駐車場から歩き慣れた大杉谷登山道で約三時間でベースに到着。

 堂倉避難小屋は、沢登りを始めてまだ間もない頃、わらじに入会する以前、そこに籠って、堂倉本谷を始め、奥ノ左又、右又、石楠花谷、ミネコシ谷と上流の各枝谷を溯行した私たち思い出の場所(2002年8月10日~16日)。昨年は、13年ぶりに堂倉滝登攀を目的にこの避難小屋に泊り、堂倉谷を溯行した。わらじの先輩から伝説の沢人・I上氏が登ったと聞いていた堂倉滝を再登しておきたいという思いで訪れたのだが、I上氏御本人からあれから連絡を頂き、お聞きした所、てっきりそちらかと思い込んでいたが登ったのは右岸とのことで、私たちは期せず左岸を初登することにになった。偉大なわらじの先人への憧れから足を踏み入れることになった沢の世界、私達の原点に再び立ち返るにも、大杉谷は丁度良かった。

 避難小屋にビバーク装備をデポし、ギアだけを装着して登山道を歩いて光滝に向かう。紅葉のシーズンのせいか、平日なのに大勢のハイカーとすれ違った。



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  光滝登攀1ピッチ目。


 光滝前には巨岩がごろごろしているので、それらを掻い潜ってラインのある左岸に移る。遠目に見て、立ってそうに見えた上部も真下から見上げてみると、傾斜はさほどでもなさそうだ。以前見た時は、全く登れそうに見えなかったが、あれから色んな経験を積んできたものだ、と思う。バンドまでスラブをフリーで登り、そこからザイルを出して、テラスまで1ピッチ目は私がリードした。


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   光滝登攀・2ピッチ目。

 2ピッチ目はコージにリードを交代。凹角から水流側へのトラバースがこの登攀のハイライト。すぐ側を流れ落ちる水流の眺めと音、そして飛沫の冷たさ、それらを五感で感じながら登る滝登攀の愉楽。こんなにも滝を傍で肌で感じられることの幸せを久しぶりに感じた。

 吊り橋の脇から登山道に這い上がり、避難小屋に戻って、ささやかながらの晩餐。早々にシュラフに潜り込むと、夜半頃から雨が降り初め、突風が吹き荒れる音に目を幾度となく目覚まされた。



イメージ 5 天気予報通り、朝食をゆっくりとっていると降り止み、雲の間から青空が覗いたが、突風は吹き止まなかった。

 半分、下山に心は傾いていたが、後悔するだろうと気持ちを入れ直して、仕舞いかけたギアを再び取り出し、与八郎谷に向かう。出合を少し下流に行った登山道からルンゼを下って大杉谷本流に降り立った。容易な渡渉で、出合滝の前に立つ。出合に掛かる二条のナメ滝、この滝が"与八郎滝"と一般的に呼ばている。ザイルを出して、コージのリードで滝に取り付くが、傾斜が出たところで右岸ブッシュに逃げて、続く二条滝の頭に出た。更に15mほどの段滝が続き、フリーで登る。


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 前方に大きな滝が掛かるのが見え、ゴーロを登って行くと、左岸に導水施設があるのを目にして驚く。下山後、『秘瀑』を読んで知ったのだが、以前は、ここに大杉谷の探勝路が付けられていたようだ。
 目の前には両岸に威圧的な嵓を控えた40mの大滝。川崎さんによるとこれが本当の"与八郎滝"とのことだ。トキ色に染まった岩壁が目を惹く。滝は氷瀑を見るようなカリフラワー状に背り出し、頭には、大岩が鎮座しているのが見上げられる。
 出合のナメ滝が「優美」という言葉で形容されるならば、「壮麗」という言葉が相応しい。アングルの問題なのか、『秘瀑』の写真とちょっと違うなぁ、と思いながら見上げた。
 

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 さて、与八郎滝の巻きはというと、右岸にルンゼがあるが立っていて悪そう・・・ということで左岸を巻く。岩場を縫って滝上に出たが、結局ルートは、導水管を辿っていることになっていた。

 与八郎滝の上は、低くなったものの両岸には壁が立ち、まだ廊下の中という風情。今度は淵の先に溝状に抉られた滝が掛かかる。左岸のリッジから巻くが、二段になっていて、上段は左に折れた二条滝となっていた。
 その上には更に二条18m滝が控えるが、これも左岸から巻いてしまうと壁も消え、廊下を脱した。





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   二条15m滝。
  


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 小滝の先には連滝最後となる釜を持った二条12m滝が掛かる。泳げばシャワーで直登できるが、今更濡れてまでも・・と思う。右岸から巻いたところで、休憩とし、ささやかなが焚火を熾して暖を取った。

 4m滝を越えると、いよいよ河原となったが、ナメや小滝が現れて何もないという訳でもない。目の前に滝が見えるが、980m地点で林道に近い左岸の枝沢を採り、林道に登り出た。


 後は、堂倉避難小屋まで黙々と林道を辿るのみだが、この林道も思い出詰まった場所だ。七ツ釜滝を登攀した時(2006年8月13日~15日)、真っ暗闇の中、歩いたことが懐かしい・・・。あの時、水筒を七ツ釜終了ポイントに忘れてしまい、カラカラになりながら歩いたものだ。林道に流れいる枝沢の音を聞いて、慌てて斜面を下って口を付けたことを思い出さす。あの時の水の味が何と美味しかったこと!見上げた星空の美しさも鮮やかに浮かび上がる。


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 さて、林道を歩いていると、対岸に私たちの先を歩く者がいると、コージが言うが、私が見た時には林に隠れて姿を見ることができなかった。こんな林道をこんな時に歩く者とは一体・・・?
 果たして避難小屋に着いてみると、その単独行者がいて、船津から林道を歩いてきた、と言う。加茂ノ助の頭に伸びる尾根を歩きたかったと話し、そんな酔狂な岳人がいることを嬉しく感じた。

 最終日はヘッデンをつけて5時に出発したが、その単独行者は3時過ぎには小屋を出て行った。