7月11日(月)は、本沢川黒石谷の深切谷下降~菅平谷溯行を愉しんできた。

 黒石谷には大昔に、ガイドブックにも紹介されている日帰りコースで下流から溯行したことがあったが、二又から上流部にはまだ行ったことがなった。
 当初はドライブェイから尾根下降のアプローチで一本一本溯行しようと考えていたのだが、この溯下降ルートの方が、一度に二本同時にトレースすることができるということで採用することにした。ちなみに深切谷~菅平谷ルートは、すでに何パーティかによる記録がある。


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   乙女滝にて。


 ─深切谷下降─

 前夜は、暑い大阪から抜け出して、料金所跡で車中泊。翌日は5時に起きて、軽い朝食の後、林道入口まで車を走らせる。ゲートのある林道入口脇に駐車し、6時出発。

 20分ほど歩くと、林道は伯母峰に伸びる稜線から離れて、東に進む。深切谷と菅平谷との分水尾根上に林道は伸びており、1250mピークを巻いている所から北に伸びる枝尾根を下って深切谷に降り立つ。(枝尾根を下っている途中で再び林道に出たが、恐らく先ほどの林道が巻き下っているのだろう)。しばらく、平凡な川原が続くが、右岸から小滝を掛ける枝沢が入る先で、谷は右にカーブを描き始め、最初の滝が掛かる。
 左岸から滝際を巻き下ると、左側に大岩を抱えた8m滝だった。周囲はすっかり自然林となった河原を進むと、ナメ状の滝の頭に立つ。登れば簡単そうだが、下るとスリップしそうなので、右岸から巻きルンゼを下ると、15mの美しいナメ滝だった。この滝を皮切りに滝場が始まる。

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深切谷のナメ滝15m。




イメージ 2 谷幅が狭まり、トユ状の滝を連続して掛ける。それらを突っ張りでクライムダウンしたり、岩棚をトラバースしながら、どんどん下って行くと、不意に落ち込んだ滝の頭に立つ。

 覗き込んでみると、クライムダウンできそうなので、直降(直登に対してこんな言葉を作ってみた)してみることにした。後ろを向いて、手に足ムーブの連続で降り、最後は釜に跳び込む。釜から上がって振り返ってみると6mの階段状の滝があった。









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   階段状6m。ここもクライムダウン。


 岩間の3m、二条8m滝と滝が続くが、谷はゴーロ帯となり、岩間に小滝を掛ける。しかし、テン場に丁度いい河原を見送ると、いよいよ下部ゴルジュ帯に入ったようで、谷は急激に下って行く。
 降りようがない滝の頭に立ち、さてどちらから巻こうかと見回すと、左岸側は嵓が発達していて大巻きさせられそうな感じだが、右岸には尾根が伸びていて、これを下れば滝下にドンピシャで立てられそう・・・ということで右岸を選択。
 モンキークライムダウンして行くと、8m滝に続いて大きな滝が掛かっているようなので、一気にそこまで下って行くと、『秘瀑』で目にしたあの滝の前だった。
 岩間を割って流れ落ちるその姿は、確かに"深切滝"の名にふさわしい。ただ、その名からして、猛烈なゴルジュに掛かる滝をイメージしていただげに、実物を目にした時は凄みに欠けるなと思ってしまった。


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  深切滝15m。

 深切滝を巻くと、一旦ゴーロとなるが、すぐに谷が狭まって連滝を掛ける。これらを巻かずに突っ張りムーブの連続ですべてクライムダウン。沢の下降も滝を極力クライムダウンし、できなければ安易に懸垂せずに下降のルートを探し出すこと、これが私達の沢屋哲学だ。迫ってこそ、その谷とより濃密な対話を交すことができるのではないか?



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  出合近くの二段15m。もうすぐ黒石本谷だ。



 この連滝を下ると、ナメの先に大きな滝が落ちる。二段15m滝で、ここは左岸の笹薮を漕いで行き最後はルンゼを下って滝下に出た。巨岩を縫い下って行くと、ようやく黒石本谷に降り着いた。時間は9時を回っており、出発から3時間が経っていた。

 本谷に入ると、廊下となっていて、さっそく大きな淵が待っていた。コージは右岸からへつっていくが、最後で水勢に弾かれたのを見て、私は潔く跳び込み、巻き返しの流れに乗って容易に左岸の岩棚へと泳ぎ着く。
 霞滝はもう真近だが、直前の巨岩のある小滝の突破は、今回は水量多く難儀しそうだ。しかし、巨岩の右岸側に回り込んでみると、穴があって、ここを胎内潜りで抜け出すことができた。



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   霞滝。今回は水量多く、直登止めて、左岸から巻いた。
  

 さぁ、霞滝の登場。以前は、直登したのだが、今回は水量が多そうだ。とりあえず、行けるところまで行ってみようということで、中段までフリーで登ってみる。
 
 中段テラスまで登ってみると、案の定、ラインは瀑水の中だった。例え登ったとしても、水量ある上部のナメで、立ち往生し兼ねない。ということで、そこからザイルを出して左岸に取り付き、樹林帯に抜けて高巻くことにした。霞滝を巻くと河原となっていて、そこが奥黒石谷と菅平谷との二又だった。ここでしばし、菅平谷のゴルジュに備えて日向ぼっこする。



 ─菅平谷溯行─


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 菅平谷に入ると、さっそく廊下となり、淵が伸びる。淵の先には小滝が掛かり、泳いで直登。淵と小滝の協奏がしばらく続き、泳いだりへつったり、心赴くままに進んでいく。

 右岸に滝を掛ける枝沢を見ると、二段7m滝。ここも直登すると、小滝の後、大きな綺麗な釜の先に3m滝を掛ける。その先で両岸の壁がぐっと迫っており、奥に比較的大きな滝が掛かるのが、眺められた。

 その美しい釜を泳いで、菅平ゴルジュに侵入する。3m滝の頭に立つと、倒木の沈んだ深い淵が伸びており、10mほどの滝が掛かっていた。まず、倒木まで泳いで、その先の様子を見に行って見ることにした。




菅平谷ゴルジュに潜入。
イメージ 9 ここは積極的にコージが先頭を切って淵に跳び込む。コージが倒木に這い上がったのを見て、私も泳いで行く。エメラルドグリーンの水面が美しく、至福のひと時だ。


 倒木に這い上がって見ると、滝の左脇にクラックが入っていて登れそうだ。・・ここがかまちゃんが教えてくれたところなんだろう。沢屋なら、まずここを登ろうと思うはずなのだが、何故、手前のバンドに上がったてしまったのだろうか?と不思議に思う。

 ふと見ると、コージが倒木を利用してクラックに取り付こうとするが、スリップして、大事なアソコを強打して、呻いている。




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   ゴルジュ奥の10m。左側のクラックを登る。


 私は泳いでクラックに取り付き、コージの後に続く。ザイルは出さなったが、一ヵ所乗り越しが悪いところがあり、ハーケン打って人工で登った。コージがハーケン打っている間、シャワーを浴び続けていたが、それも快感に感じられる。夏到来、沢シーズンまっ只中にいる自分たちを感じた。


 ゴルジュを抜けても、滝場がまだ続く。まず、二条4mをシャワークラすると、右側に岩が積み重なった斜瀑4mと5mが相次ぐ。それらを岩側から乗り越してみると、左岸から枝沢が入っており、本谷には連滝が掛かっていた。後で調べて分かったのだが、それが折合滝だった。丁度12時だったので、ここでお昼休みにした。陽だまりがあったのだが、滝からの風で寒くて、早々に出発した。



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  水滴で画像がゆがんでいるが、折合滝。


  水量が少なければ直登できそうだが、今回は多いので左岸から巻く。折合滝は10m、7m、ナメを持った5mの連滝になっていて、7mの上で谷に戻った。

 ナメと小滝が続いた後、釜を持った6mを越えると河原となり、菅平谷の主だろうか?巨木が生えていて、しばし立ち止まり、見上げる。こうした巨木との出会いは、沢登りの愉しみの一つでもある。

 右に左にルンゼを見送ると、淵を持った小滝が掛かり、ナメとなった先に大きな滝が掛かるのが見える。ナメを駆け上って行くと、両岸壁を備えた斜瀑となっていて、堂堂たる風格がある。これが、言わずもがな、40mあるとされる乙女滝だった。



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   乙女滝にて。乙女らしくない。


 乙女滝は、左の水流ある壁を登るのだが、取り付くのに奔流のナメを横断せねばならず、爆水に弾かれそうにながらのスリリングな渡渉だった。壁に取り付くと、スタンス豊富なのでフリーで登り、最後は樹林に逃げて頭に出た。頭に立つと、先ほど見上げた菅平谷の主の姿が望むことができた。

 右岸から枝沢が入ると、4m滝。右岸には壁が聳えているのが、見上げられる。最初は左岸側をトラバースしようとしたが、滝の直登が悪いので、戻って右岸から巻いた。8m滝は瀑水浴びてのシャワークラで直登。その上は、思わず歓声の上がる美しいナメが広がっていた。



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 黒がかった岩肌から、黄土色となり、太陽の光を浴びて、さらさらと流れる。ナメを過ぎると、4mの滝、10mは右側を直登した。再び、綺麗なナメが続くが、周囲はすっかり植林となり、フィナーレが近いことを知らせていた。

 来たるべき詰めに向けて、不必要に水浴びをする。左岸から滝の掛かる枝沢を過ぎると、左岸の台地に小屋跡があり、そこで沢といよいよお別れにすることにした。

 尾根を北へとひたすら登り、冷やした体もすっかり汗だくになってしまった。登り詰めたのは、林道が東へと向きを変える1250mピーク。後は、林道をてくてく駐車地まで歩くだけだった。

 到着は14時半過ぎ。黒石谷の二つの支流を巡る旅は、水量豊かな滝と淵、自然林が美しく、身も心も癒された。