「とうとう降り出してしまったな」と思うが、雷鳴を聞きながらのゴルジュ溯行も乙なものだ、と気分を入れ替える。側壁は相変わらず高いが、ゴルジュ内に掛かる滝は、小さなものばかりで容易に突破していくことができた。




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         左岸枝沢に掛かる30mほどの滝。
         (暗いので、画質が更に悪くなった)



 上部がナメとなって続く岩間の5m滝を左手から直登すると、二条6m滝が目の前に掛かるが、その背後に大きな嵓があり、そこから30mほどの滝が掛かるのが見えた。左岸の枝沢に掛かる滝で、本谷は二条6m滝上で左に屈曲していた。

 目の前の二条滝の突破は今までのように容易にはいかなさそうだ・・・雨足も激しくなり、右岸から巻くことにした。ここはザイルを出して、コージがリードするが、登り出してすぐに「ワイヤーがある!」と叫んだので、結構、人臭いところなんだなと落胆する。
 小尾根に上がると、20m滝か掛かるのが見下ろすことができた。この滝の前に立つには、この小尾根から懸垂下降することになるが、登り返しが面倒なので、頭まで一気に巻いてしまうことにした。上から見ると、二条と思われた6m滝は、実は、本谷からの流れと右岸枝沢からの流れが、並列して掛かっている滝だということが分かった。

 小尾根の上は植林で、台地になっている。あまりにも居心地良かったので、計画では右又に入った所で幕営する予定だったが、雨は止みそうにないし、ここで幕営してしまおう、ということになった。20m滝を巻いてしまえば、ゴルジュはもう終わりのはずだった。




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         高巻きの途中から20m滝を見る。
        (シャッタースピードが遅くて、ブレてしまった。。)


 谷に降りて、水を汲んだ後、乾いた服に着替えてツェルトの中に潜り込む。今日は焚火は諦めた!ガスで調理し、早々に、缶ビールを開ける。結局、20時頃まで雨は止むことがなかった。

 翌朝、びしょ濡れの服に着替えるのは、億劫だったが、朝食を食べた後、気合で着替える。ツェルトの外に出ると、ガスが掛かっていて、日差しはまだ望めなかった。

 谷に下りると、そこは、20m滝に続く二条5mナメ滝上の河原だった。河原を進むと、比較的広い釜の先に8m滝が掛かる。泳げば登れそうだが、寒かったので、右岸バンドをトラバースし、頭に降りた。
 ナメ状の岩床を進むと河原となり、しばらく河原を歩いて行くと、そこが二又だった。左又の先は嵓が立っていて、40mはあろうかと思われる大滝が掛かっていた。今回、進むのは右又の上オクノ谷。上オクノ谷の出合には、釜を持った5m滝が掛かっていて、直登できそうにないので右岸から巻いた。



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         左又に掛かる40m滝。




 右岸に石垣を見ると、五右衛門風呂釜や、波型トタン、導水管などが散らばっているのが、目に入ってきた。一升瓶の破片も沢山転がっている。かつて、植林小屋があったのだろう。ゴルジュ内でもワイヤーや導水管などを時々目にしたが、かつてこの谷界隈は、林業が非常に盛んだったことが分かる。

 左岸にガレを見送ると、退屈なゴーロの登高がしばらく続く。「まだかな、まだかな」と思いながら、ずんずん登って行くと、左側に大岩のある6m滝の先に広い空間が開けており、そこに水流が落ちているのが眺められた。

 待ちに待ったもの!6mを大岩の左側から登って越えると、大滝が目の前に現れた。下段は、ブッシュの生えたリッジを間に挟んで二条になっているようだが、右側のスラブには水流は見られない。水流は左側にあって、大滝の前で谷は左から右に屈曲していた。右岸には枝沢が入る。



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         大滝下段。
 


 滝の前でクッキーを齧って休憩後、いよいよ大滝登攀に取りかかる。水の流れのある左側の滝は、バンドが走っており、これを辿ってみることにした。ここは、ザイルなし。バンドからブッシュを潜ると、中央リッジの端緒となるテラスに出た。ここでいよいよザイルを出して、登攀開始!1ピッチ目は、私のリードでザイルを伸ばす。

 テラスからそのまま直上しても良さそうだが、モコモコした岩場を少し登った後、リッジの右側へトラバースしてみることにした。すると、両側にブッシュの生えた凹状が上部に続いていていて、これを登ると、ピナクルに出た。目の前には上段滝、スラブ状に流れ落ちており、優美な佇まいを見せていた。

 上段部は、コージのリード。ピナクルから降りて、上段滝に取り付く。「水流行くでっ!」というので、頷く。上段滝は下部は緩やかなスラブから右に折り返してやや傾斜を増した上部スラブとなって続く。なので、下部のスラブを左にトラバースした後、しばらくコージの姿が見えなくなる。ハーケンを打っているようだが、ようやく姿を見せたコージは全身ズブ濡れ。薄日は差しているものの、ビレイしている間に寒くなってきて、頷いたことに後悔する。




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         大滝上段。




 順調にザイルが伸びて、谷間にコールが木霊する。コールで応じて気合を入れて出発。ズブ濡れになったが、不思議と寒さを感じなかった。大滝の上には、10mのスラブ状の滝が続いていて、右岸から巻いた。
 滝場はまだ続く。小滝を二つこなすと、6m滝は根っこを掴んで左岸巻き。2m滝を越えると、そこが奥の二又で左又には8m、右又には5m滝を掛ける。
 私たちが進むのは右又。もう終わりかなと思われたが、出合に掛かる5m滝を越えると、二条3m滝、12m滝と相次ぎ、「まだまだあるやん!」と喜ぶ。しかし、左岸から枝沢を合わせると、いよいよ平流という気配となり、ここで谷から離れることにした。


 休憩の後、枝沢との間の尾根に取り付く。淡々とした植林の登高が約300m。ぜいぜい言いながら、1028mのピークに登り出た。
 後は、アプローチに辿った尾根を引き返すだけ。しかし、1060mピークから東に伸びる尾根を870m地点まで下ったところで、北東に伸びる枝尾根に入るのだが、こちらの方が下るの楽だと北に伸びる尾根に入ったにのがミスだった。下った行き先が切り立っていて、隣の枝尾根、これも悪くて更に隣の枝尾根へと追いやられてしまった。
 それでも、ようやく取り付き地点に入る谷に降り着く。この谷を後は、下るのみ。
滝場は大してなかったが、両岸は壁が立っていて、林道まで尾根から谷に下れそうなところはなかった。

 アプローチに難があり、なかなか溯行者を見ない東ノ川・オクノ谷。台高でも指折りの秀渓には間違いない。