6月10~11日で行ってきたのは、東ノ川・オクノ谷。坂本ダムの出現により入谷が困難となり、秘境と化した渓谷である。1976年吉岡&小井パーティがゴムボードを利用して入谷を果たしており、その記録が『台高山脈の谷』にも収録されている。

 以前、かまちゃんからキンゴさんと一緒にカヤックでダム湖を渡って行ったという話を聞いた覚えがあったが、ボートやカヤックなどという移動手段を持ち合わせていない自分たちには縁のない谷として、脳裡の外に長い間放置されていた。


 しかし、『秘瀑』に乗せられた数枚の写真を眺めて、「行ってみたい」という思いが強まった。険悪な側壁がうち続く下部ゴルジュと、源流に突如現れる大滝・・・、東ノ川・オクノ谷は沢屋には無視できない道具立てが揃った秀渓のようだ。ダム湖によって阻まれた入谷をどうしたらよいものか?・・・地形図を眺めた結果、尾根越えし、尾根を下ってオクノ谷出合に至るアプローチ・ルートを考えた。


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         オクノ谷・大滝上段部

  尾根越えルートで、恐らく最短と思われるのは、ザンギリ林道からオクノ谷左岸に伸びる尾根を辿るというもの。林道が坂本ダムに向かって下降し、大きく回り込んでいる地点に掛かる沢の辺りから枝尾根に取り付き、標高は記されていない1060mピークからオクノ谷左岸尾根を下るというルートだ。
 このルートファイディングでは、左岸尾根の850m地点から坂本ダムに対して岬のように突き出している枝尾根に乗るのが、核心だと思われる。今まで、GPSを持たずに、ルーファイきた自分たちの経験と勘の試しどころだ。
 しかし、実はこの一体の山域は、ダムの対岸という秘境のイメージとは裏腹に、植林が進んでおり、至る所に人工的な痕跡があって、それを利用して、予想以上に簡単に出合に辿り着くことができた。『秘瀑』を後でちゃんと読んでみると、ダムのできる以前は、「出合には大塚集落があり、林業が盛ん」だったと書いており、道理でと納得してしまった。

 今回は、2時に起床し、出発するが、川上村の道の駅でついに眠たさにダウンし、仮眠を取ってしまう。小1時間は眠ったのだろうか?再び車を走らせると、路面は濡れていて、前日もしっかり降ったようだ。しかし、天気予報では、この二日間は梅雨の晴れ間で、30度を超える気温のと事で、まさにゴルジュ日和!

 果たしてザンギ林道に入り、トンネルを抜けると東ノ川方面は深いガスが掛かっていて、ガスの中からおぼろげに見える山塊は、幻想画を眺めるようだ。駐車地に到着し、準備をしていると、そのガスも次第に晴れ、強い太陽の光線が降り注いで、木々の緑が光輝いていた。

 ザックの中にゴミ袋を二重に入れて、しっかり防水をほどこしたところに、諸々の装備を詰め込もうとした時に、痛い忘れ物をしたことに気が付いた。痛い忘れ物とは、デジカメのことだ。デジカメを忘れても山行はできるが、記録の少ない谷だけに、写真は欲しかった。しかし、食材や泊りの装備に気を遣い過ぎて、すっかり忘れてしまっていたようだ。仕方がないので、画質は悪いが、携帯(ガラケー)を持っていくことにした。ということで、今回は、このように文章主体の記録となる。

 

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         出合に掛かる10m。


 下った枝尾根は、ダム湖に対して岬のように突き出しており、オクノ谷出合付近は、入江のようになっている。ルンゼを下り、出合の左岸に立ち、ルンゼをもう一本横断しトラバースで、出合滝の上部に出た。

 出合滝上は、ちょとした広場になっているが、すぐ先に両岸壁の迫った長い淵があり、右から10mの滝を掛けていた。直登は厳しそうなので、左岸から巻き、続くトユ状滝を越えたところで、懸垂下降で降りた。もうちょっと巻けば、懸垂は必要なかっただろう。
 河原となり、ここで遅いお昼休憩をとる。空を見上げると、出発時あれだけ晴れていたのが、どんよりと曇っている。そう言えば、予報では、夕立が降るところがあると言っていたな、と思い出す。

 出発すると、釜のある二段二条5mと2m滝が続き、直登するが、釜は浅い。CS2mをこなすと、逆くの字の5mの登場だが、頭にワイヤーやら流木やらが沢山被さっていて、五月蠅い。右側の岩場を登って、この滝を越える。

 出てくる小滝をどんどん登ったり、へつりでこなして行くと、両岸の壁が立ってきて、ゴルジュとなる。そそり立つ側壁は青光りしており、苔や羊歯は生えるものの、樹林は遥か遠ざかって、簡単には巻かせてはくれなそうな威圧的な壁。日差しがあれば、そのゴルジュの荘厳さに見惚れただろうが、まるで地獄の底にいるように真っ暗で、陰鬱な気分に支配される。谷が右に曲がる所で右岸から遥かな高みから滝が掛かるのが、眺められる。


 とすると、不意に、谷間に雷鳴が響き渡る。見上げると両岸被った側壁の合間から雨粒が白糸のように落ちてきているの見えた。足元の釜の水面にもあちこちで波紋が生じては消えていた。


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