本当に命は儚いです。そう思ったのは、実際に私が体験したから。コピーライター当時、事務所は中央区八丁堀にあったのですが、私たちが借りていたオフィスの一階には、植木鉢にいつも水をやり、会うと「今日は天気がいいねー」と大きな声で挨拶してくれるおじさん夫妻が住んでいました。おじさんの服装は、夏はステテコにタンクトップの肌着。思いっきり下町情緒あふれる一角だったので、そんなラフな格好でも違和感はありません。なにしろこのマンションの屋上には、鯵の開きが丁寧に天日干しされていたりしていたんですから。


で、ある日のこと。いつものように、おじさんの明るいあいさつを聞いたなあと思っていたら、帰宅してニュースを見てた私に飛び込んできたのは、おじさん夫婦の訃報でした。なんでも、月島に住んでいた孫にカッターで滅多刺しにされ、失血性ショックで亡くなったとか。日頃からおばあさんが、勉強しろと叱るのを恨んでの犯行だったそうです。ついさっきまで元気だったのに、夕方には惨殺されてしまった。二人が残した植木の植物は、その後、近所の人たちが水をやり大切に育ててくれていました。


殺害現場に行くのは怖かったけど休む訳には行かず、翌日、事務所に行ったら、まだ多くの警察官が出入りをしていて物々しい雰囲気。数日後、keep outのテープは剥がされ、室内を見ることができましたが、私は覗き込むことなどとても無理。物好きな同僚いわく室内は血の海だったようです。


いやはや、人生は何があるか分かりません。今日、元気だったからと言って、明日も生きている保証はないのです。だから、今を大切に生きていないといけないな、と思った次第。おじさんの笑顔は、今も脳裏に焼き付いています。アーメン。