今回は妊娠中の予防接種あるいは手術予定のある患者さんの予防接種における、一般的な注意点を紹介してみます。
ワクチン接種後に生体が抗体を産生するべき時期に、手術や麻酔により免疫が抑制されると、抗体の産生が不十分となる可能性があります。またワクチン接種により発熱や発疹などの副反応が起こりえますが、この時期に麻酔や手術を行うと、副反応の増強や生ワクチンによる感染症の発症を生じる可能性があります。
したがって、ワクチン接種つまり予防接種の後は、手術・麻酔までの間に一定の猶予期間をおく必要が出てきます。
施設ごとに若干の違いはあるかもしれませんが、予定手術であれば下記のような猶予期間を設けることが推奨されます。
生ワクチン(ポリオ・麻疹・風疹・BCG・おたふくかぜ・水痘など)の場合:4週間以上あける
不活化ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・日本脳炎・インフルエンザ・B型肝炎)の場合:2週間以上あける
*ポリオに関しては単剤のものおよび4種混合として不活化ワクチンが登場しております。しかし、不活化ワクチンの供給が追いついていないことや生ワクチンの効果の大きさ・使いやすさなどから、医療現場ではまだまだ生ワクチンと不活化ワクチンが並行して使われている現状があります。接種したワクチンが生ワクチンか不活化ワクチンかを十分に確認しておく必要があるでしょう。(誤解を招かないために11/9の8:00に加筆しました。)
しかし、発熱・痙攣・発疹などの副反応は、ほとんどの場合、生ワクチンでは接種後1~2週間以内、不活化ワクチンでは2日以内に現れるますので、これを踏まえると、生ワクチン接種後2~4週間あるいは不活化ワクチン接種後2日~2週間の間に手術となる場合には、危険性を十分説明し、同意を得たうえで行うこととなります。そして、生ワクチン接種後2週間以内、不活化ワクチン接種後2日間の場合には副反応が増強する可能性が高いため予定手術は延期することが強く望まれます。
もちろんですが緊急手術の対応はこの限りではありません。
こうした点を踏まえると、妊娠中の女性がインフルエンザの予防接種をうけるタイミングとしては以下のようになります。
①予定帝王切開で分娩予定の場合:
帝王切開を行う適応にもよりますが通常は36週~38週で予定されます。とすればインフルエンザワクチンは不活化ワクチンですので、帝王切開予定日の2週間前までに接種しておくことが強く望まれます。
②経膣分娩予定の場合:
分娩時期がいつになるのか不明ですが満期である37~41週の間で分娩になる可能性が最も高く、分娩に際しては少なからず緊急での帝王切開への変更もありえます。とすれば遅くとも妊娠35週までに接種しておくことが望まれます。
③すでに満期もしくは満期近くの場合:
今の時期であれば分娩後あるいは帝王切開後に接種することが望まれます。
①や②の場合でも、予期せず分娩時期が早まったり帝王切開の時期が早まったりすることはあるでしょう。しかし、ほとんどの場合で緊急帝王切開は対応可能です。インフルエンザの予防接種に対して過度な心配は不要です。
逆に、妊娠中の女性は何週からインフルエンザの予防接種をうけることができるのでしょうか?
妊娠初期にはインフルエンザの予防接種を避けた方がよいとの慎重な意見もありますが、インフルエンザの予防接種により流産や奇形のリスクが増すというエビデンスはなく、一般的には妊娠全期間においてワクチン接種希望の妊婦さんには接種可能と判断されます。
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