ステップアップ方式による不妊治療 | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

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 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 わが国において不妊症患者さん(カップル)に対する不妊治療は、従来より多くの施設でいわゆる「ステップアップ方式」に則って行われています。つまり、両側卵管閉塞や重度の乏精子症など体外受精(IVF-ET)や顕微授精(ICSI)の絶対的適応症例を除いては、ステップアップ方式で不妊症の検査や治療が行われていると考えてよいでしょう。

 ステップアップ方式とは、分かりやすく言えば、身体的・経済的に負担の少ない治療からスタートし、段階的に治療のレベルを上げていく方法です。

 この理由は以下の通りです。まず、現在の診療技術では不妊原因のすべてを解明することは不可能であり、不妊症患者さん(カップル)がどのような治療を行えば妊娠できるのか、あらかじめ治療法を特定するのが難しいことがあげられます。さらに、多くの不妊症患者さん(カップル)が少しでも身体的・経済的に負担の少ない治療法を望んでいるという背景もあります。他にも、体外受精(IVF-ET)や顕微授精(ICSI)などの生殖補助医療技術(ART)の持つ未解明のリスクも潜在しているでしょう。

 実際、先日の読売新聞の医療ニュースでは「不妊治療の体外受精で使われる培養液に、母親の血液の10-100倍の有害な化学物質が含まれることが、厚生労働省研究班の調査で分かった。毒性が確認されている濃度の1000分の1程度だが、マウスの細胞を使った実験では、この濃度以下でも遺伝子の働きに影響を与えることが確かめられた。」との内容が発表されています。

 これらの理由を考慮すれば、いわゆる「ステップアップ方式」が今後も不妊治療の基本方針になっていくことは間違いないでしょう。

 一方、晩婚化が進む中で、妊孕能の限界近くの年齢になってから初めて不妊症の検査や治療を開始する不妊症患者さん(カップル)も少なくありません。ステップアップ方式に則って不妊治療を行う場合には1周期の治療におおむね1ヶ月を要します。つまり、タイミング指導・人工授精(AIH)をそれぞれ6周期ずつ行うとすれば、最低でも1年を要することになります。

 高齢女性の場合など、卵巣予備能が急速に低下しつつある不妊症患者さんでは、この間に妊孕能が失われててしまう可能性もあります。そうなるといざ体外受精(IVF-ET)や顕微授精(ICSI)などの生殖補助医療技術(ART)を行おうとした時に、良好な胚(卵です)が得られないといった事態に遭遇することになります。卵巣予備能の低下の度合いは必ずしも暦年齢に比例せず個人差が大きいといわれています。

 そのため近年では、個々の卵巣予備能に応じて不妊治療の計画を立てる大切さがクローズアップされてきています。

 卵巣予備能については次回以降に扱うことにします。

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