男性因子による不妊(男性不妊)について part4 | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

B)男性不妊症の検査
(5)精液検査
精子機能検査
 精液所見が基準値を満たし原因不明の不妊症と診断されたカップルの中には、精子の機能に障害がある場合が少なからず存在します。そのためには精子の受精能力を予測・評価するためには精子機能検査が必要となってきます。精子機能検査の代表的なものには次のようなものがあります。

a.透明帯除去ハムスター卵へのヒト精子侵入試験:ハムスターテスト
 精子の受精能力を調べる最も確実な方法は、その精子が卵子と受精できるかどうかをin vivoあるいはin vitroで直接調べることですが、ヒトの卵子を検査に用いることは困難です。そこでこれに代わるさまざまな検査法が考案されています。その代表的なものが「透明帯除去ハムスター卵へのヒト精子侵入試験」です。透明帯を除去したゴールデンハムスター卵に、受精能力のあるヒト精子が侵入可能であることを利用して精子の受精能力を判定する検査法です。精子侵入の認められた卵が全体の15%以上を示す場合妊孕性ありと判定します。

b.hemizona assay(HZA)
 半切したヒト卵の透明帯を用意し、被検者の精子の透明帯への接着性を対照の精子と比較して受精能を相対的に評価しようとする方法です。
 hemizona index=結合した被検精子数結合した対照精子数×100 で表します。

c.精子膨化試験(hypoosmotic swelling test:HOS
 先体反応など一連の受精過程に重要な役割を果たす精子細胞膜の機能をみる検査法です。低浸透圧溶液中で生じる精子尾部の膨化(ballooning)を形態学的に観察し、それによって推察される尾部細胞膜の機能から精子の受精能力を間接的に判定しようとする検査法です。
$周産期センターの第一線で働く産婦人科医師のひとりごと-精子の形態異常 膨化した尾部は左図のようにa型からg型まで7種類に分類されます。g型は尾部全体が著明に膨化しており細胞膜が無傷で膜の機能が良好であることを示しています。このような精子は受精能獲得(capacitation)や先体反応(acrosome reaction)がスムースに起こるであろうと推測されます。50%以上の精子で尾部の膨化が認められると、人工授精での妊娠が期待できるとされています。HOS<50%であると体外受精における受精率の低下は認められませんが、有意に妊娠率は低下するので、顕微授精を施行した方がよいといわれています。またHOSは、不動精子症の症例で顕微授精を行う場合の精子の選択に有用です。

d.アクリジンオレンジ染色による精子核成熟度検査
 哺乳動物精子の核の成熟性がアクリジンオレンジ螢光染色法で判定できます。体細胞のDNA蛋白はヒストンですが、精子のそれはプロタミンです。このプロタミンに含まれるSH基は精子が精巣上体において成熟するに従い次第にSS 結合に変化します。SS結合に富むプロタミンを含むDNAは酸で処理しても二重鎖の構造が保たれますが、SS 結合のないDNAは二重鎖構造が失われます。DNAにアクリジンオレンジ染色を施すと二重鎖DNAは緑色に、一本鎖DNA は赤色に螢光で染色されます。このように精子を酸で前処理した後にアクリジンオレンジ染色を行うことでSS 結合の有無から精子核の成熟性が判定できます。green headed spermの占める割合が50%未満の症例では通常の体外受精では受精し難く、顕微授精が適応となります。

(6)精巣組織検査
 直接、精細管内の造精機能をみる検査です。無精子症症例には不可欠の検査です。精細管内での精子形成の有無や精細胞の分化度から造精機能障害の種類や程度が診断できます。

 精巣における造精機能は正常であるが精液中に精子が認められない時には、精路の異常が疑われることになります。

 造精機能不全では精子細胞までの分化は認められますが、細胞数は少なく分化も遅れていることが多いです。

 成熟停止では多くは1次精母細胞の段階で分化が停止しています。それ以外の場合でも精子細胞に至る前のいずれかの段階で分化が停止しています。

 セルトリ細胞遺残症候群ではセルトリ細胞のみで精細胞が認められません。

 精子形成能の定量的評価には,Johnsen’s scoreが用いられています。以下に示します。

1:精細管内に細胞成分を認めず
2:精細管は欠如.セルトリ細胞のみ
3:精細胞は精祖細胞のみ
4:精子・精子細胞を認めず精母細胞も数個
5:精子・精子細胞を認めず精母細胞も多数
6:精子を認めず精子細胞も5~ 10
7:精子を認めず精子細胞が多数
8:精細管管腔内に精子が5~ 10
9:多数の精子を認めるが細胞配列に乱れ
10:精細胞の層が厚く正しい配列。多数の精子を伴う完全な精子形成能

 もちろん10が一番よく、1が一番悪いことになります。

(7)精管造影
 閉塞性無精子症が疑われる場合、閉塞部位の診断目的に施行される検査です。局所麻酔下に皮膚を切開して精管を剝離露出させます。造影剤を精管の尿道側に注入し精路の疎通性・閉塞部位を診断します。実際の臨床の場面で行われることは少なくなりました。

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