正隆の言葉に、透は驚く。
「ちょっと、正隆さんっ!」
「訳あって、俺の養子にした。小林透と名乗らせてる。よろしく頼む」
「小林を名乗っておられるので?」
「その事は、もういいだろ?おれと同じ生地で誂えて欲しいんだ」
青年は、何もなかったかのように巻尺を取り出す。
「かしこまりました。採寸致しますので、こちらへ」
透が鏡の前に立つと、オックスフォード商会の青年は、採寸に取り掛かる。
「こいつは、周防智也といってな。腕のいい縫製職人なんだ」
「また正隆様は、そんなことをおっしゃるんですから」
透の寸法を書き記しながら、周防は正隆を見た。
「形は、正隆様と同じで?」
「お揃いにしてくれ」
「かしこまりました。出来上がり次第、お届けに上がります。請求書は、御本家の方に送らせていただきますね」
「いいかげん、俺の所に送ってくれないか?」
周防は、表情を変えることなく言う。
「お言葉ながら、正隆様がお買い求め頂いた物の請求書は、すべて正信様にお届けするようにと、申しつかっております」
「・・・・・もう、俺だって働いているし、それなりには儲かっているんだけどな」
「正信様から、おすそ分けを頂いたことがございますよ。あいつが作ってる〝しょくらあと〟という物だと」
「正信様?」
透は、尋ねた。
「おや?透様はご存知では?」
「まだ、昨日養子にしたばかりでな」
周防は、ため息をひとつ。
「正隆様。ご養子様には、ちゃんとお話しをなさりませ」
「わかったわかった。家に帰ったら、話すよ」
正隆は、不機嫌な顔で言った。
「って、ちょっと待て。なんで、あの人が知ってる?」
「時折、お使いの方がお買い求めになられておられますよ?」
〝しょくらあと亭〟までの道のりを、二人は無言で歩いた。
ふと、透は足を止める。
「どうした?」
正隆の声は低い。
「無理に話さなくてもいいんですよ?」
透の言葉に、正隆は苦笑いを浮かべた。
「透に心配かけさせてしまったな」
正隆は、透の手を取った。
「透に頼みたいことがあるんだ」
「何ですか?」
「・・・・・おまえを・・・・・抱かせてくれないか?」
