「青斗さん危ない!!!!!伏せてぇぇえええ!!!!!!!!!」

「え、お、おわああ!!!!!!」

あの日から始まった強化訓練の二日目 。この身なりでも扱える武器を探そうと、ナイフやら鎖鎌やら。使えそうな武器を両手に抱え、倉庫から出てきた途端。突如叫ばれた慣れない低いテノールに身を竦める 、確か...これは真葉の声だ。気配のする方へ顔をあげると。鼻腔を擽る火薬の臭い 、明らかに自分の元へと降り注ぐ、ジジジ、と短くなりつつある導火線の付いた黒い球体が、スローモーションに見えて。

_ 嫌な予感しかしない 。

俺の人生ここまでか 。

そう思い目を瞑った途端、
誰かに突然、グッと肩を寄せられた。
それと同時にパシュッ 、と 空気を切り裂く様な音が耳に届き。何かが力なく地面に落ちる音を聞けば。自分が先程まで居た、誰もいなかった筈の倉庫を思い出し 。驚いて思わず目を開ける 。

「ご無事ですか?」
その紅い目に映ったのは、此方の様子を伺う、短い淡い金髪の青年で。童話に出てくる様な見た目の彼は、元は自然の守護者である少女、レオナであり 。
目の前の赤髪の少女...もとい少年の為、急いで駆けつけたのだろう 、らしくもなく息は微かに乱れている 。

「れ、レオナ...すまん 、体が思うように動かなくてな 。」

「全然大丈夫ですよ 。私も 、そこでボスと訓練をしていたら。真葉さんの声が聞こえて。ボスに"この女のままの力だと銃が使えないから、行ってきてくれ"と言われまして 。」

急いで来ちゃいました、と少し苦笑い気味に言葉を零すレオナの姿を見ると。
銃が使えないっていうのは、絶対に嘘だろうな、と彼は直感的に感じた。
なんせ昨日の夜中、眠れないからと。訛った体を解す為、近くの森で不定期に繰り出される互いの攻撃を避ける訓練をしており、大樹の枝の上で呑気に足を組んで、楽しそうに目を細めて何十発も発砲していた浅葱の姿を、彼は知っているから。

「青斗さんレオナさんごめんなさい!!!お、お怪我はありませんか!?」

「ええ、吃驚しちゃいましたが。」
咄嗟に導火線を切ったので、と自信気に付け足し。ふと視線を其方に移すと、確かに燃えていた導火線の部分だけが、綺麗に切断されていた。
...流石の剣さばきだな 。

「俺は平気だ、...レオナに借りを作ったな。」
そう苦笑い気味に言うと 。
背後から聞こえた足音に、ふと振り返る。白髪に黒のメッシュの入った、紅瞳の少女が其処に居て。ムカつくほどに可愛らしく、腕を組み顎に手を添えて目をそっと細めると。

「そうだな、女子に守られるなんて情けないぞ青斗 。」

家庭を制する長女の様な言い分に。こいつ... 。と思ったが、言い返そうにもぐうの音も出ず。

「 向いてないかなあ~...。先程、爆弾なんかはどうだ?とボスに薦められまして。」

「いいんだ真葉 。これから合うやつを選べば 、な?」

「ボス... 、はい!」

真葉に爆弾を渡し、自分は武器を使えるにも関わらず使えないと非力な少女を演じてレオナを向かわせ 。

...なんだか全ての辻褄があった様な気がしたが、浅葱に向かって心底嬉しそうににぱっと笑顔を向ける真葉の姿を見ていたら、言い出せなくなった。

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「...で ?結局、武器は決まったの?」

やれ訓練疲れただの甘いもの欲しいだの騒いだどこぞの誰かが急遽レオナに頼み作ってもらった特製ドーナッツに、がぶりと噛み付き。
そのあまりの美味さに皆が言葉を失っていた時、ふと久弥谷が口に付いた砂糖を指で拭い、それを舐めとると、そう女子軍に聞いた。

「前方のレオナと真葉はどうだ。」と、珈琲を飲みつつ浅葱が聞くと。金髪の青年は少し目を丸くし、茶髪の少年は「!!」と毛を逆立てた猫のように、過剰に反応をした。

「んー、私はやはりレイピアですかね。」

「...私は... なんだろうなあ 、今のところ1番合うのは、この双剣かもしれません。」

金髪の青年は腰に携えた細身の剣にちらりと視線を落とし。茶髪の彼は、細部まで美しく彫刻の施された二双の短剣を懐から取り出すと。ファミリーへ、その存在を示すかの様に、コトンと机の上に置いた。

「えっ真葉短剣なんて使える?指切らない??」

「いや包丁を初めて使う子供じゃないんですからねファルさん!!大丈夫ですよ!?」

「手は猫の手だぞ」

「なるほど...って包丁じゃないですってば!!」

「...で。レオナはまあ確実に問題ないとして、青葉は?」

「私は...悩むけど、案外使いやすいのはナイフとかかも。」

シャキンという金属音を立て、手品の様に数本のナイフをその手に握ると。
" 確か前の任務でナイフ投げ師に変装してましたものね "とレオナの声を聞くと薄く笑み、「そうそう。それでなんか慣れちゃって。暇な時遊んでたら、ね。」なんて器用にも片手で軽くジャグリングをして見せる。

「そう。聖奈は決まったの?」

そう言えば先程から何も発していない銀髪の青年の方へ一同が視線を送ると。
外の景色を見ていたその青年は「 嗚呼 、」と小さく声を漏らして視線を返す。
銀の髪の間から覗く黒猫の様なその翡翠の瞳。
英国育ちという事もあり気品が溢れていて。
童話の中に出てきても可笑しくない、絵に描いたような造形美だった。
そのまま窓に背を預け、青葉たちに向き合えば。

「...僕は変わらず銃だね。男の体格になった方が、威力を増しても体が持つし。」

「なるほどね...ていうか、絵になるわね。なんか。」

「なに外なんか見てるんだよ... 黄昏てるのか?」

「分からない?」

そう、テノールの聞いた声が告げた。その瞬間。空が光った。逆光で暗くなり、その翡翠の瞳が唯一見えるくらいで 、まるで本物の黒猫の様だった。今日は天気が荒れると聞いていたが 、にしても急過ぎる 。
嫌な予感が、鈍感な俺らにも分かるくらい直感的に伝わった。

黒猫は告げた。


「 来たよ、敵 」と。



それと同時に、「レオナ」という浅葱の声が聞こえ 、金髪の青年は「 si 」と一言を告げると、
__あまりに一瞬だった。
テラスに出る大窓が音を立て開き、凄まじい風が襲い掛かる。
咄嗟に顔の前に交差した腕の隙間から、レイピアを構え、敵陣営を薙ぎ払う金髪の後ろ姿が見えた。圧倒的なスピードとその金の瞳は、まるで獰猛な猛禽類の様だった。
だが、彼女はその分スタミナが劣っている。
出来たところで時間を稼ぐ、くらいだろう。


「真葉、聖奈、青葉。敵はレオナの雨の炎の鎮静効果で動きが鈍くなっているはずだ。
1人は弱いが数が多い。」

「なるほど、それは暴れていいって事?」

「嗚呼、_派手にやってこい。」


三人の獣は今、放たれた。