もう2週間もおならがていない。
普段、なるべくおならを出さないように過ごしてきた。
そしたら、神とはなんてことをなさるのだ、まったくおならが出なくなってしまった。
いや私だって最初は、おならをせずに、スタイリッシュに生きていきたかった。おならのない未来はウォウウォウウォウウォウなはずだった。
しかしこういう状況に陥った今、おならが出てほしい。ただひたすら、おならを出したい。出して出して、空へ羽ばたきたい。
今さら言ってもしかたないかもしれない。しかし、どうにかしておならを出さなくてはいけない。
「親孝行したいときには親はなし」と昔から人は言うが、「おならしたいときには、おならなし」というものか。悔し涙で、前が見えぬ。
しかし、いつまでたってもこんなことではいけない。そんなとき私は、気になる広告を見つけた。
「おなら合宿。あなたのおなら出させます。」
白黒でコピーされた、目立たぬチラシであったが、私はワラにもすがる気持ちで飛び付いた。
そして、さっそく電話をし、おなら合宿参加の申し込みをした。
これでおならが出せる。
屁が花咲く時が来た。
そして私は、後日、おなら合宿本部へと足を運んだ。
割りと、大きなビルで私はたじろいたが、中に入りソファーに座った。
すると、ソファーの向かいにあった扉がバタンと開き、中から老女が出てきた。
髪の長い老女は、その汚い髪を後ろで束ね、輪ゴムでとめている。
そして、汚い浴衣の胸元からは垂れさがった乳房が、今か今かと出方をうかがっている。
そして、2歩に一回のペースでおならをしながら近づいてくる。
歩くたびにブッ、ブッ、ブッと音が放たれる。
なんてビートだ。
さすがだ。この人がおなら合宿コーチに違いない。
私は立って挨拶した。
「合宿に参加させてください。よろしくお願いします」
頭を勢いよく下げたあと、恐る恐る頭をあげると老女は、完璧なポーカーフェイスで
「そうかい。私はコーチではないよ。私は今日で合宿を終わりさ。過酷な合宿だった。髪は抜け、残った毛は全部白髪になった。ここに来たときは、ちょうどあんたぐらいの年だったな。若人よ、気をつけてな。」
そう言い老女は、ゆっくりと歩きはじめ、また2歩ずつおならをしながら歩いて行った。
そして自動ドアが開き、外の光が老女を包んだ。
まぶしい外の光を老女は、ギラリと睨みつけ
最後にこちらを振り返り、
「言葉は磨けば武器になる。心を磨けば、財産になる。おならは磨けば……楽器になる」と言った。
意味はまったくわからなかったが、
最後に、ブバッ!最高のおならをし、晴れやかに出ていった老女を見送ると
なんだか、自分の心構えが軽はずみだったんじゃないかと思った。
そして、きずくと私の隣には、スーツの男が立っていた。
男は「合宿参加者ですね。中に、参加者がいます。行きましょう」と私を誘導し
私は男について、中に入った。
中にすでに10数名の、合宿参加者がいた。
私はその冴えないメンツに、なんとも言えない気持ちになった。
おならが出なくなると、人間こうも冴えなくなるのか。
そして、いよいよ説明会が始まった。
そしてさっきまでいたスーツ男はいなくなり、鬼のような顔をした男が出てきた。
鬼は「おまえらか!おならが出なくなった奴らは!」と怒鳴った。
この一声で、あたりは凍りついた。
しかしなぜ、ここまで怒られなければならないのか。
鬼は、続けた。
「おまえらみたいなもんがおるからなぁ!世の中むちゃくちゃなんだよバカが!出すもん出さなきゃ始まるもんも始まらねぇだろ~~が!!そうだぁがぁ!おまえらみたいなもんは!死んだらええんやぁ!」
この人はなんなのか。
私たちは、わけのわからぬ恐怖に震えた。
いったいこの人は、どこまで人をバカにするのか。
私たちのような人がいなかったら、この人仕事なくなるじゃないか。
そして鬼は私たちに「これに着替えろ」といい、服をくばった。
私たちは「OG」(おなら合宿を意味するらしい)と書かれたTシャツに、おならが出しやすいようにデザインされたハーフパンツ履いた。
私たちが全員着替え終わると、鬼コーチは
「さ~まずは走れや、クズが。」と言い、合宿生たちは言われるがままに、ホール全体を走った。
すると鬼は、どこからともなくムチのようなものを持ちだしてきて
そして走る合宿生たちを追いかけては、ハイ~屁ぇ出せ~!ハイ~屁ぇ出せ~!と言いながら、ムチをふるう。
私達は真剣に逃げ、鬼も真剣に追ってくる。
その走り回る回転はどんどんと速くなり、加速するその輪は、どっちが追い、どっちが逃げているのか、わからないほどだった。
火事場の糞力で屁を出す者まで現れ、そのトレーニングが終わるころには、3人の合宿生達が卒業した。
鬼は
「よくやった。残ったおまえらも、根性だしてがんばれや!」と言い、卒業生たちに、言葉を送り、卒業生たちは泣きながら帰った。
私は心底うらやましかった。
そして、鬼は、
「今日はここまでにする。さぁ食事だ。上にある食堂へ行け。だが食堂の前で騒ぐなよ。騒いだ奴は食事はなしだ!!!」と言った。
子供か!宿泊研修か!と思ったが、食事が食べたかったので騒がないように移動した。
食堂では、セルフサービスらしく、私達はおぼんを取り並んだ。
列は進んで行くが、しかし一向に、皿や箸、フォークが現れない。中で準備しているおばちゃんたちも見当たらない。
なんだと思い、行列の先を見ると、三角斤とエプロンをした鬼コーチが芋をくばっていた。
芋オンリーらしい。
私はがっかりしたが、だまって芋を待って並んだ。
やっとコーチの前にきたとき、コーチは「お疲れさん。今朝家でとれた芋だ。良かったな」と言った。
なにも良くはない。
しかし、ここまでするとはこの人どんだけ、この仕事が好きなんだろうと、ある意味感心した。
そして私は、芋をのせたおぼんを、運び席についた。
そうして合宿1日目は幕を閉じた。
おならが出たらすぐに卒業なので、寝室やいたるところにガスセンサーがあり、おならが出ていないかを見張っていた。
夜中に卒業する合宿生も少なくないらしい。
いつだっていい。早く卒業したい。
しかし夜中におならは出ることもなく、朝になった。
目覚めると、私達は、おなら体操という、尻をまんべんなく振る体操をした。
まだ私のおならは出ない。
そして今日のメインとなるトレーニング、「静かな体育館で体育座りをしよう」が始まった。
これには、おならをしたくなる合宿生 続出で、次々と感染するように、ブーブーブップハッスーと卒業していった。
コーチはこのとき一番、嬉しそうな顔をする。
だか私のおならはまだ出ない。
今日のご飯も芋だった。
次の日、合宿生は5人になっていた。
これはあせる。
仲間でありライバルだ。
じきに友情もできつつあるが、私達は絶対に心を開かないようにした。肛門を開くまでは。
この日は、おならヨガというものをし、私達の中にあるオナラのチャクラを刺激した。
うまく刺激でき、一人が卒業した。
そしておならヨガのあとは、また最初の日にした「おならンニング」というものをした。
このトレーニングが一番きつくて、一番効果が期待できない。
ムチを持つ鬼コーチも腹立つ。
しかし、やはり火事場の糞力で出す奴がいて、また2人卒業した。
これで残るは私と、もう1人の2人になった。
もさくるしい男である。
こいつにだけは負けまいとあせった。
食事の列も、短くなり芋をもらえるのも早くなった。
芋の量も増えた。
どんなシステムだ。
コーチは、「おまえらが人類で一番、あれだな。おならが、あれだな」とわけのわからぬことを言い笑った。
私達もつられて笑うしかなかった。本当に、あれだ。
そして笑っていると、ブハブビブブビブビブビブヒ~~~と、残るライバルの男がおならをした。
これにて、私は一人になった。
このコーチと二人きりでいるなんて最悪だ。
コーチは「おまえが最後だな。ビシバシいくぞ。この前の女性は、白髪になるまで卒業できなかったからな。それは嫌だろう。」
と言った。
あのとき会った老女のことだろう。
私はああなるのか。
次の日、私は一人でおならダンス、おならンニングをした。
おならンニングは一対一で逃げ場がなく、本当に地獄だったが、おならはでなかった。
最後、捕まって、いろんな意志がやってきて浣腸されたが、涙しかでなかった。
それから、「和室でくつろぐ」「美術館に行く」「屁という字を習字で書く」などいろいろしたが、私はおならを出せず、もう耐えきれなくなってきていた。
それを見かねたコーチは、「どうしても、出ないようだな。そうか、これはな最後の奥の手なんだが、インドにおならの神とされている僧がいる。その人をたずねてみるのはどうか」
と、自分じゃ見切れない的な発言をした。
それはコーチが初めて見せた、自信のない顔であった。
私は、インドにまで行かなきゃいけないものかと思い驚き、そのコーチの表情にさらに驚いた。
さらにコーチは
「その僧を見つけられるかわからないが、行く価値はあると思う。その僧の尻毛を火であぶり、煎じて飲めば、必ずおならが出ると言われている。どうするか?行くか?行くよな?」と問い詰める。
私は、見つからないこともあるなんてと驚いた。
なにも、そこまでしなくともならんか。
コーチは泣いている。
これには、さすがにびびり、驚きすぎて、そして肛門も驚いたのかついに、ブとおならがでた。
そしてプハプハハハハプハハハハブーハハハハ!!と!
花咲くように笑うようにおならが出て、コーチの顔が笑顔になった。
そしてコーチと私も、おならに負けないぐらい笑った。
……私ははこれで卒業した。
コーチの最後の話と涙が、おならを出させるための計算だったのかわからない。
だが私はコーチを感謝している。おかげでおならがでた。
言葉は磨けば武器になる。心は磨けば財産になる。おならは磨けば……楽器になる。
私は手に入れた楽器を鳴らし鳴らし、私は自動ドアの前の、いつもの世界へと出て行こうとした。
コーチが大きな声で「二度と帰ってくるなよ」と言ったのが聞こえた。
外はもう春だった。
私は生まれなおしたような晴れやかな気分でブハ!とおならをした。
あのときの老女のように。
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