「ロイヤルホテル」2023年製作 オーストラリア 原題:The Royal Hotel
 

埼玉県から青森県に引っ越して早、三ヵ月経つ。映画を観るのに電車で行くのだけれど、電車本数がすくないので半日がかり。

ひさびさに観た映画はキティ・グリーン監督の「ロイヤルホテル」。「ロイヤルホテル」(The Royal Hotel)はドキュメンタリーの『ホテル・クールガルディ』(Hotel Coolgardie)に着想を得て作られた。

オーストラリアでバックパッカー(中長期に渡り海外を旅する個人旅行者)の女性2人がワーキングホリデーで恐怖の体験をする実話を元に作成されたとのこと。

 

ワーキングホリデーとは、休暇目的の入国や滞在期間中の滞在資金を補うための労働を許可する制度。

映画.comの評価は☆5個に対して3.1なので、62点という平均点数。でもぼくにはとっても満足のいく映画で、点数をつけたら90点。最後の場面では一人受けて、思わず笑って「傑作だ!」と、心の中でつぶやいたくらいだ。

ハンナと親友リブは、旅行中にお金がなくなって紹介されたのは飲んくれの集まる古いパブ「ロイヤルホテル」。住み込みでバーテンダーとして働くことになる。そこは荒野に建ち、スマフォの電波も届かず、交通手段が自家用車しかないような場所。パブの店主はアル中で来る客も酔っ払いばかり。パワハラやセクハラ、女性差別の連続。

初めての勤務の日は、店内の女の子がカウンターにあがり踊って、酔って盛り上がる下卑た男達の喝采を浴びる。店内は飲んだくればかり。その様子に二人のうち、一人の楽観的なリブは笑って客の相手をして溶け込むものの、まじめなハンナは笑顔がなくなり、自分の働く場所ではないと、さっそく気が付いている。

客の中のおばさんまで、そこお店の雰囲気に見事に溶け込んでいて、ハンナに「前かがみで酒を出しな」とからかう。

気がつくと、部屋の前に客の男が立っていたり、突然、閉店の店の戸をたたいて訪問したりと、だれにも助けを求められない閉鎖的な状態で、男達による行動にジワジワと恐怖を覚えていく。

その緊張の日々の中で、客といっしょにドライブして、車と競争するかのように並走するカンガルーを見て女の子二人がはしゃいだり、とうてい水とは縁のなさそう平原で、泉を教えてもらい泳いではしゃいで音楽を聴いたり、ほんのひと時の幸せな時間も描いている。

しかし出てくる男は基本、全員ろくでなしばかり。

キティ・グリーン監督はこの映画に関してこのようにテーマを語っている。

「最初は小さいジョークから始まり、それが問題にならないと、もっと下品なジョークになってという風に悪化していく。『ロイヤルホテル』ではマイクロアグレッション(自覚なき差別)を描きたかったのです。早い段階で「NO」と伝えていれば、やがて起こってしまう性的な暴力は生まれなかったかもしれない。Xで止めておけばYに行かなかったのにというようなことを指摘したかったのです。」

その自覚なき差別の現実を吹っ飛ばすかのような当映画のラストは実に爽快だ。映画のトーンがホラー映画の「ホステル」(2006)や「胸騒ぎ」(2024)に似ていると指摘する人がいるが、ラストから来る気持よさは、この映画独自の味わい。

参照:監督キティ・グリーンにインタビュー、描きたかったのは“自覚なき差別”