2023年8月、紙製「医療用医薬品添付文書(以下、添付文書)」の個装箱内に封入が不要になりました、その代わり、添文ナビを用いて製剤に印字されている“GS-1コード”を読み取ることで、医薬品医療機器総合機構(PMDA)ホームページから電子情報として参照できます。

 

実は…

紙製「添付文書」の情報源としての限界を感じており、2018年、実態調査の結果に基づいて、紙製から電子的「添付文書」への移行の提案を行っていました。今回は、その取り組みを紹介します。

 

紙製「添付文書」では、最新情報を伝達できない !?

2017年12月、内服薬(20品目)と注射薬(10品目)について、山口大学病院薬剤部の薬品棚の紙製「添付文書」とPMDAホームページの「最新添付文書」と比べたところ、改訂前の紙製「添付文書」が薬品棚にあることが分かりました。その中には、「最新添付文書」では、赤字で示した重要な情報が追加されているものも・・・


発売されたばかりの新規医薬品や処方頻度が少ない医薬品では、「添付文書」を確認する機会が多いです。ところが、処方頻度の低い医薬品は、購入頻度が少ないため、薬品棚の「添付文書」は納品当時の古いものでした。

 

製薬会社から出荷時には最新の「添付文書」であっても、医療機関に納品されるまでの間、また、医療機関で備蓄している間に、“情報の鮮度”はどんどん低下します。

そして、残念なことに、手にした紙製「添付文書」を見ただけでは、それが“最新のもの”であるかどうかは判別できません。つまり、情報が更新されていることを知らないまま、医薬品を取り扱うリスクがあります。

 

このような限界があるのに、紙製「添付文書」の個包装内への封入は、長い間、当たり前のように行われて来ました。そして、改訂されたときには、わざわざ箱に新しい「添付文書」を貼り付けて納品されることもありました。

製薬会社にお聞きしたところ、紙製「添付文書」に関する費用は1社あたり年間1~4億円で、これはかなりの負担です。

 

初めて、web 調査に挑戦しました !!

「医薬品添付文書」に関する調査を、病院薬剤師と保険薬局薬剤師を対象に、“Google Form”を用いたweb調査で行いました(2018年1月~2月)。
調査フォームは、当時、山口大学病院臨床研究センター助教だった近藤智子先生(現在、鹿児島大学ひとレトロウィルス学共同センター 特任教授)に作成していただきました。

 

設問は、背景情報の他、次の5点(選択回答式)です。

 ① 紙製「添付文書」の必要性

 ② 「医薬品添付文書」情報の主な入手先

 ③ 紙製「添付文書」が最新のものであることを確認状況

 ④ 紙製「添付文書」を個装箱に封入する必要性

 ⑤ 紙製「添付文書」が必要な理由

この調査に対して、病院薬剤師502人、薬局薬剤師243人から回答がありました。
“Google Form”を利用された方はご存知と思いますが、回答は自動集計・グラフ化されるので、面倒な集計作業は不要です。

 

では、調査結果を順に見ていきましょう。

まず、① 紙製「添付文書」の必要性」と② 「医薬品添付文書」情報の主な入手先です。

 

次に、③ 紙製「添付文書」が最新のものであることを確認状況です。

 

続いて、④ 紙製「添付文書」を個装箱に封入する必要性です。

 

そして、最後が、⑤ 紙製「添付文書」が必要な理由です。

 

以上の結果を見ると、病院と薬局に共通して、現場の薬剤師は、紙製「添付文書」への心理的な依存度は高いものの、それが最新情報なのかどうかを十分に確認していない ことが分かりました。

 

紙製「添付文書」から電子的提供へ

この調査結果から、最新情報の伝達手段として紙製「添付文書」には限界があることを確認でき、PMDAホームページ上の「添付文書情報」を簡単に利用できる環境を早く整備する必要があると思いました。


ただ、2018年当時は、電子的な添付文書は法的に認められていません。そこで、次のように、段階的に紙製「添付文書」を廃止することを提案しました。

短期的には「紙製添付文書を個装箱の外に貼付する」ことにより、最新の「添付文書」を届けることを目標にしました。



そして、PMDAの添付文書情報へのアクセス方法として、各添付文書のURLとリンクした “QRコード” を個装箱に印刷し、手持ちのスマートフォンの標準機能で読み取ることを提案しました。



メディア報道は、読者層と読者数の点で、論文より “impact” があります。この試みは、薬事日報(2018年03月26日)で紹介していただくことで、紙面を通して提案できました。

記事掲載は、山口大学を定年退職する5日前のこと、うれしい退職記念となりました。

 ●添文ナビ(添付文書の電子化に対応したスマホアプリ)について
  医薬品・医療機器等安全性情報 No.382(2021年4月)

  ●添付文書の電子化について(医薬品医療機器総合機構)

 

余談ですが・・・

2020年には、自力で“Google Form”の調査フォームを作成し、病院薬剤師が主演の初めてのTVドラマ「アンサング・シンデレラ」に関する調査を試みました。その結果は、DI online の次のコラムで紹介しています。

薬剤師はアンサングをどのように見ている?(2020年9月11日)

 

また、2021年には、「添文ナビについての調査」も行い、その結果を DI online コラム「電子化された添付文書を活用するためには(2021年5月14日)」として紹介しました。
 

便利な時代を過ごせること、とてもラッキーです !!