前回のコラムで、薬剤師の対人業務を進める標準化ツール「副作用シグナル確認シート」を紹介しました。今回は、その続編「アプリケーション」開発への挑戦です。

 

コンテストで、準グランプリ受賞 !!

「副作用シグナル確認シート」は、ベーリンガー・インゲルハイム社主催の「BIファーマシストアワード2012」で“準グランプリ”を受賞しました(2012年3月11日)。



東京・有楽町で開催された選考会でのプレゼンテーションと、その後の結果発表。60歳を前にして、このようなドキドキ経験ができるとは・・・


 

この時の様子は、日経「DIオンライン」コラムに書きました。

 

次の目標は、ツールのデジタル化

次のステップとして、iPadやiPhoneのようなタブレット端末やスマートフォンで利用できる「副作用シグナル確認シート」アプリケーション開発の検討を、医薬品情報担当主査(当時)の幸田恭治先生と一緒に始めました。

 

アプリケーション開発となると、情報通信技術の専門知識が必要です。自分達の力では実現できないことがわかり、山口大学内で開発パートナーを探すことにしました。でも、なかなか見つかりません。

どうしたものかと二人で空を眺めていたところ、2012年6月に「BIファーマシストアワード」事務局(当時)を担当されていた加藤久幸さんから、“無償配布”を条件でアプリケーション開発についての提案を受けました。

もともと、薬剤師の業務支援ツール開発は大学病院の役割のひとつと考えていましたので、“無償配布”は当然と、その提案を喜んで受け入れました。

 

システム開発は、ベンチャー企業「株式会社プラスアール」が担当することになり、希望する機能についての説明と意見交換を続けました。そして、8月、アプリケーション「副作用シグナル💔CHECKER(案)」が出来上がりました。

2012 年11 月16 日、日本ベーリンガーインゲルハイム社からプレスリリースがあり、同社ホームページからアプリケーション「副作用シグナル💔CHECKER」の無料ダウンロードができるようになりました。


「副作用シグナルCHECKER」の使い道としては、次の場面を想定しました。

 (1)入院患者の副作用シグナル確認

 (2)外来患者の副作用シグナル確認

 (3)在宅ケア患者の副作用シグナルの確認

 (4)臨床試験における有害事象の確認

 (5)災害時の避難所等における有害事象の確認

 

自分達だけで開発を進めていたら、“迷い道”の途中だったと思います。夢を早く実現するためには、良きパートナーとの出会いが重要であることを実感しました。

 

「副作用シグナル💔CHECKER」とは

このアプリケーションは、iPad や iPhone 画面に表示される「副作用シグナル確認シート」の8症状各4シグナルを、患者、薬剤師や介護者がタッチして入力します。

その情報は、機器本体に記録されます。

 

記録された情報は、CSVファイルとして電子メールで送受信することができるため、何らかの副作用シグナルが検出された場合は、薬局と病院で情報共有することができます。


 

機能は、それだけではありません。

次の表に示した「重要な副作用の初期症状」と「観察された副作用シグナル」が紐づけされていて、患者で観察された副作用シグナルから重要な副作用の可能性を表示します。



これが、その結果を表示した画面です。
この画面では、赤色地、黄色地、青色地の順に可能性が高いことを示しています。

赤色地部分があれば、医師にそのことを伝えると同時に、患者に受診を促すことで、重要な副作用の早期発見と早期対応が行われる・・・それを目指したものです。


 

 

残念なことに、2017年、Apple Developerの更新条件の改定に伴い、このアプレケーションのダウンロード・サービスは終了しました。とても残念です !!

 

余談ですが・・・

通常、「BIファーマシストアワード」コンテストに、60歳近い薬剤部長がエントリーすることはないと思います。その理由は、(1)次の世代にチャンスを作ると(2)落選したら格好がつかない・・・の2点だと思います。


この時は、「薬剤部長が先頭に立って挑戦する !!」という意気込みを優先しました。もちろん、発表内容は、スタッフの手柄を横取りしたものではありません。一方で、スタッフの協力なくしては実現できないことでしたので、「受賞賞金は全額、薬剤部に寄付する」と約束して選考会に臨みました。
 

グランプリ(賞金50万円)を目指していましたが、結果は、準グランプリ(賞金30万円)。差額の20万円は、持ち出しとなりました(泣笑)