「休薬」という用語は、外科手術や内視鏡検査などの前に、一時中止する医薬品を連想しますが、本来の投与方法として「休薬期間」を設け、有害作用による影響を最小に抑えながら投与を繰り返すという医薬品があります。

 

 今回は、その 休薬期間が必要な医薬品 のエラー対策について考えます。

 

「メトトレキサート」でのエラー事例
   2004年12月、大学病院で「リウマトレックス(一般名 : メトトレキサート)」を連続投与して、患者が死亡したという出来事がありました。

 

 慢性関節リウマチに対するメトトレキサートの投与方法を整理します。

3回分をまとめて1回で服用するという方法もありますが、多くの場合は、3回に分けて服用した後、次の週まで休薬するという服用が行われます。報告されているエラーでは、3回で終わらず、その後も1日2回の服用を続けたというものです。

 

 メトトレキサートでのエラー事例は、何度も報告されています。日本医療機能評価機構が発行している「医療安全情報」で3回、また、PMDAが発行している「医療安全情報」で紹介されていますので、ご参照ください。


 日本医療機能評価機構「医療安全情報 No.2(2007年1月)」
 ●日本医療機能評価機構「医療安全情報 No.45(2010年8月)」
 ●日本医療機能評価機構「医療安全情報 No.167(2020年10月)」
 ●PMDA「医療安全情報 No.6(2008年10月)」

 

 当時の販売会社の武田薬品は、誤投与の防止対策として2011年に製剤包装の工夫を行いました。そして、2013年に販売を引き継いだファイザー社も投与日を記入できるスペースを設けたシートに変更しています。
 このシートですが、1週間の投与量は6mg(2mg×3)なので、個人的には、1シート3カプセルがよかったと思います。

 

「テモゾロミド」でのエラー事例 

 2018年8月には、国立病院機構の医療センターで休薬期間が必要な抗がん薬「テモダールカプセル(一般名 : テモゾロミド)」を39日間連続投与し、患者が死亡するという報道がありました。

 

 テモゾロミドの医薬品添付文書(以下、添付文書)の「用法・用量」を整理すると、次のようになります。

 「初発」と「再発」の場合で異なっていますが、共通しているのは、“休薬期間”があることです。そして、「初発」の場合、初回投与と継続投与で投与量と投与間隔が異なっており、注意が必要です。


 また、「用法及び用量に関連する使用上の注意」には、投与開始に当たって、好中球数と血小板数の最低値も示されています。

 

 このような医薬品は、メトトレキサートやテモゾロミド以外の抗がん薬や免疫抑制薬にも多くあのます。

 

発売前に、処方入力方法を統一できないか ?
 病院情報システムが導入されている医療機関では、薬剤部門が医薬品マスターに新規採用薬の登録を担当し、医師はコンピュータ端末から処方オーダを行います。

 

 医薬品のマスター登録作業自体は難しいことではありませんが、メトトレキサートやテモゾロミドのように「休薬期間」があるなど特別な用法を持つ医薬品の処方オーダ方法を院内で統一して援用することは簡単ではありません。

 複数の医療機関で診療を行うことが少なくない医師にとって、医療機関毎に処方オーダ方法が異なるのは混乱の元です。特別な用法を持つ医薬品については、すべての医療機関で同じ方法で処方オーダできるようにすることがエラー防止につながります。

 

 提案としては特別な用法を持つ医薬品については、発売前に、統一した処方入力方法を決める・・・ということです。

 具体的には、医療情報技師資格を持つ薬剤師のグループ(例えば、日本病院薬剤師会の「医療情報システム小委員会」)が、医師の希望も反映させた「入力方法(案)」を作り公開する・・・というのが最も効率的と考えます。

 

 新薬の薬価収載のタイミングは、2月、5月、8月、11月の年4回です(ただし、薬価改定が行われる年は、2月の薬価収載が改定後の4月にずれます。また、抗HIV薬など、年4回のタイミングにかかわらず緊急的に薬価収載される薬もあります)

 また、薬価収載される新薬の数は、年間50から60です。特別な用法を持つ医薬品はその一部(10%以下)なので、作業負担は大きくない・・・と思います。

 

 新医薬品の情報は、厚生労働省ホームページで「新医薬品一覧」として公開されますが、そこには「用法・用量」の情報はありません。少し遅れますが、日本薬剤師会のホームページで「新医薬品の薬価収載」を待つ方が便利です。 

 

添付文書に、「投与日数制限に注意」と表記できないか ?

 「医薬品を使用する前には、添付文書を確認することが基本!」というのは当然のことだと想いますが、小さな文字だけが続く添付文書は、医療スタッフにとっては利用しやすいものではありません。


 患者の安全を守るための重要な情報は、医療スタッフに確実に伝わる工夫が必要です。例えば、休薬期間が必要な医薬品については、次の図のように【用法・用量】の冒頭部分に「休薬期間に注意」という“統一用語”を追記することはできないでしょうか。

 

 こうすることで、医薬品医療機器総合機構(PMDA)ホームページの「医療用医薬品の添付文書情報」サイトの検索により、該当医薬品が簡単に確認できるし、該当医薬品の最新リストも入手できます。 

 

 この機会に、「休薬期間が必要」など特別な用法を持つ医薬品のエラー対策について再検討されることを願います。

 

【おまけ・・・です】

 ついでに、「おまけ」として、愛媛大学医学部付属病院薬剤部が作成された外科手術前に休薬する必要がある医薬品リストを紹介します。

 ●愛媛大学病院薬剤部作成「術前休薬インデックス ver.1.0(2022年6月)」

 

 また、ご参考までに、外科手術や検査や処置の際に投与中止(休薬)を検討すべき医薬品でのエラー事例も・・・。
 ●観血的医療行為前に休薬する薬剤に関連した事例
 ●検査・処置時に休薬すべき薬剤に関する事例