今回は、「エラー報告と原因・誘因分析の目的」がテーマです。

 

何もしない人は、間違うことはない(エラーしない)

 医療提供者に限らず、プロがエラーするのは許されないことですが、人間である限り、誰でもエラーをする可能性があります。

 

 医療現場では、次のようなエラーが起きています。

 ・処方する医師は、処方を間違える。
 ・注射(与薬)する看護師は、注射(与薬)を間違える。
 ・調剤する薬剤師は、調剤を間違える。

 ・薬を飲む患者は、薬を飲み間違える
そして、何もしない人は、間違えることはありません。

 

エラーを報告をする

 エラーに気づいた場合、患者の被害を最小にするための対応が最優先です。当事者が組織の一員である限り、エラー対応は、当事者だけなく、組織として行う必要があります。

 

 本人がエラーを隠すことは、結果として、エラー後の対応が遅れ、患者の被害が大きくなります。また、組織がエラーを隠すことは、社会的信頼の低下につながります(多くの場合、隠しても、内部か外部から通報されます)。

 

 エラー対応がスタートした後、当事者は、記憶がはっきりしている間に、エラーの発生状況を具体的に「エラー・リポート」としてまとめることが重要です。

 エラーを報告する目的は、エラーにつながった原因(誘因)を明らかにして、再発を防止することにあります。だから、「エラー・リポート」は、反省文や謝罪文でも始末書でもありません。
※日本の医療機関では、「インシデント・リポート」という用語が使われていますが、本コラムでは、「エラー・リポート」という世界的な用語を使います。


 エラー・リポートの導入時(2000年初め)は、現場のスタッフから、かなり抵抗がありました。その主な理由は、次のようなものでした。
 ① 自分の失敗を明らかにしたくない
 ➁ リポートを書く必要性がわからない
 ③ エラー報告が、個人評価につながる
 ④ リポートを書くのに時間がかかる(書く時間がない)


 それでも、院内講習会などで「エラー・リポート」の目的と必要性について継続して説明したことによって、スタッフの理解が進みました。また、使いやすい報告システムが用意されることで、スタッフの抵抗も少なくなっていきました。
 

ヒューマンエラーの誘因は、色々ある !!
 「ヒューマン・エラー」という用語が定着する前は、エラーの原因は,当事者の 精神面のたるみ として片付けられがちでした.「注意力が足りない!」や「気合いが入っていない!」・・・これらは,エラーの当事者に向けられた言葉です.


   しかし、エラー・リポートを読むことで、本人の「精神面のたるみ」だけでなく、次の図のように色々な背景や誘因があることが分かってきました。

 

ヒューマン・エラーの分析は多角的に !!

  報告されたエラーについて、その誘因を多角的に分析して、再発防止に生かすことが重要です。

 

ヒューマン・エラーの分析方法としてよく知られているものに、

 ①根本原因分析(Roots Cause Analysis : RCA)

   ➁SHELL 分析  があります。

 RCAは「なぜなぜ分析」とも表現され、「なぜ」を繰り返すことで問題を深堀して、根本原因にたどり着くという分析方法です。このRCAは、グループによる分析に適しています・

 

 SHELL分析は、エラー原因・誘因を整理しやすい方法です。下の図を見てください。
図の中央の「青地のL」はエラーした本人です。その当事者本人が持つ内的誘因に加えて、次の4つの因子が影響します。

 ①業務マニュアルなどの「ソフトウェア因子」

 ➁医薬品や医療機器などの「ハードウェア因子」

 ③労働環境などの「環境因子」

 ④同僚、上司や患者などとの「人間関係因子」

 

 重大なエラーあるいは再発しそうなエラー発生時には、当事者と共にSHELL分析を行うことで、各因子のエラーへの影響度を知ることができ、エラー再発の効果的な防止策を立てることができます。

 また、この分析方法を知ることで、エラー当事者がリポートをまとめる時に、原因・誘因の整理がしやすくなります。

 

再発防止策は、継続して実行できるものを

 エラー原因・誘因の分析が終われば、影響度の高い順に取り除くことが効果的な再発防止につながります。

 再発防止策は、具体的なもので、スタッフが継続して実行できるものが必要です。

 ただし、再発防止策には費用と時間がかかるものもあります。その場合は、短期的な対策と長期的な対策を併記すると良いと思います。

 

余談ですが・・・
よく使われている「ヒヤリ・ハット」という用語ですが、「ヒヤリとした」と「ハッとした」出来事のことです。もともと看護領域で使われ始めたもので、日本でしか通用しない養護です。