今回から、

新しい Key Sentence「エラー事例から学ぶ !!」シリーズが始まります !!

 

「医療安全」が関心を集めるようになったのは2000年
 医療提供者の業務上のエラーが原因で生じた患者の健康被害(医療事故)が、メディアで大きく取り上げられ、社会の関心を集めるようになったのは、2000年。
それは、この頃、大学病院などで続いた悲しい出来事がきっかけです。
もちろん、それ以前にも、全国の医療機関で医療事故は起きていました。


 

「人は誰でも間違える」・・・ヒューマンエラー
 その背景には、2000年の「To Err  is Human」というアメリカ合衆国「科学アカデミー医療研究所」がまとめた報告書の公開があります。


 

人間である限り、
何か行動(仕事)をすれば、間違える(エラーする)。

これ以降、“ヒューマンエラー(Human Error)” という用語が広まりました。

 

仕事は早いけど、調剤時の間違い(特に、数と規格の間違い)が多かった身にとって、「人は誰でも間違える」というタイトルは救いでした。

 

驚くのが、当時の厚労省の対応のスピード
 振り返ってみて驚くのが、当時の厚生省の取り組みの早さです。
(行政機関の仕事は遅い・・・という認識ですので)

 

 2000年5月、「医薬品・医療用具等関連医療事故防止対策検討会」を設置し、9月には「医療事故を防止するための医薬品の表示及び販売名の取り扱いについて(医薬発第935号)」という通知(以下、「935号通知」)を発出しています。

 

 ヒューマンエラーを誘発する原因に、「似ている(類似性)」ことがあげられます。
この「類似性」には、

①見た目が似ている(外観類似性、look-alike)

➁発音が似ている(音声類似性、sound-alike)・・・があります。
「935号通知」では、ヒューマン・エラー誘因となる「物(医薬品と医療機器)」の安全対策に焦点を当てています。

※通知の本文は、こちらから見ることができます。

 

安全対策のための製薬会社の製品改善・改良の取り組み

 この通知を受けて、2000年代、製薬会社は、自社製品の医療安全上の改善に取り組まむことになりました。

 例えば、エラーが問題となった製剤のPTPシートに「薬効」を印字するという試みもありました。

 

 その一方で、せっかく改善や改良に取り組んだのに、発売中止になった製品もあります。
①点滴用キシロカイン10%(アストラゼネカ)
 注射用のキシロカインには、「静注用2%5mL (100mg)」と「点滴用10%10mL (1000mg)」 の2規格が発売されていました。このうち、「点滴用10%10mL (1000mg)」製剤を誤って急速静注し、死亡を含む患者の健康被害発生が複数回報告されました。

 製薬会社は、2004年1月22日、下の写真のように、エラー防止対策として、(1)アンプル上部にもラベルをかぶせ、上部ラベルを切り離さなければ使用できないように変更、(2)本体ラベルには「点滴専用」、上部ラベルには「希釈確認」と大きく記載、(3)上部ラベルには「急速静注」の文字に大きく×印を追加しました。
 その工夫の甲斐もなく、結局、2005年3月31日に発売中止となりました。


➁アミグラント(テルモ)
 隔壁で分離されている「2槽容器」は、看護師の注射剤混合業務を軽減しました。ところが、「2槽容器」であることを認識してかない看護師が、隔壁の開通操作を忘れて投与するというエラー事例が全国で報告されました。
 エラー防止対策のひとつとして、「やりたくても、できないシステム」がありますが、この製剤は、それを取り入れたものです。こちらも、2018年6月20日に販売中止となりました。

 

余談ですが・・・
 2000年に「935号」通知が出されたことは、座長の土屋文人先生(当時、日本病院薬剤師会医療安全対策委員会委員長)と厚労省(当時)の担当技官の宮下久徳先生(国立病院から出向)のご努力の結果だと思っています。
(筆者も作業ワーキング・グループに参加させていただいたことに感謝しています)