2000年から、ほぼ毎日、“医薬品関連のエラー・事件”を中心に、マスメディア(特に新聞)の情報をチェックしています。2003年からは、「m3.com」が医療従事者向けに医療ニュースのweb 提供を始めたので、情報収集が楽になりました。


 最近では、次の2件のエラー事例の報道がありました。

 ・事例1: 医薬品マスター誤登録に伴う誤処方(2023年8月23日報道)

 ・事例2: 処方オーダ時の“投与量”誤入力(2023年9月25日報道)

 

事例1: 医薬品マスター誤登録に伴う誤処方

 エラー事例の概要を、ご確認ください。

 

 金沢大学病院で働いていた時、医薬品マスター登録を担当していました。登録を間違えて、目的とする医薬品がヒットしなかったり、誤字を含む医薬品が印字される・・・という経験があります。

 医薬品マスター登録の間違いは、処方薬の取り揃え時のエラーと違って、多数の誤った処方せん発行につながります。影響が大きいエラーです。

 同じようなエラーを防止するために、皆さんの医療機関での「オーダリングシステムのマスター登録手順」について再確認してみてください。

 

 本事例に関して、「サワシリンカプセル250」と「バクトラミン配合錠」の成人投与量を比べてみましょう。

 下の図のように、両者には「投与数」と「投与回数」に違いがあります。ということは、薬剤師が処方内容に疑問を感じ、医療機関に確認することで、「患者の服用を避けられたのではないか」・・・と思います。

※両者の記載方法は、サワシリンが「1回量×回数」に対し、バクトラミンは「1日量を分割」と異なります。どちらが、理解しやすいでしょうか・・・?
 

 報道記事の中で、気になったことがあります。それは、5月に発生していたエラーを8月になって公表している・・・という点です。

 健康被害は認められなかったかもしれませんが、9人の患者が間違った医薬品を服用しています。公表は義務ではありませんが、公表の動機が「外部からの指摘」というのは、医療機関に対する信頼低下につながる・・・と思います。

 

事例2: 処方オーダ時の“投与量”誤入力

 エラー事例の概要を、ご確認ください。


 この事例の報道では、医薬品名が書かれていません。新聞記事で医薬品名が書かれていないことは珍しくありませんが、エラー事例から学ぶためには、医薬品名の明記してほしいです。

 

 ステロイド薬で0.5mgと4mgの規格を持つ製剤を探したところ、「デカドロン®錠(デキサメタゾン)」が見つかりました。本事例の医薬品がデカドロン®錠」と仮定して、その投与量を見てみましょう。

 

 医薬品の投与量は、疾患によって異なることが少なくありません。ただし、基本は、臨床試験結果に基づく「医薬品添付文書」の用法・用量です。医師も、臨床研究でない限り、科学的な根拠がなく投与量を決めることはできません。

 本薬の添付文書では、全身性ALアミロイドーシスに対して1日40mgの“パルス投与”が行われますが、1日の投与量は40mgです。また、それ以外の連日投与では、1日最大量は20㎎です。

 

 新聞記事では、患者の長女が薬剤師も11倍量をおかしいと思わなかったのか。誤投与が死因ではないにしても父は多くの薬を苦しみながら飲み、死期が早まったと感じると訴えた・・・と書かれています。この訴えを、しっかり受けとめることが大切です。

エラー事例の公表

 事例1の医療機関は、ホームページで次のような掲示を行いました。一方、事例2の方は、医療機関のホームページ上にエラーに関する掲示は見当たりません。

 

 医療領域を含めて、問題と思われる出来事があれば、家庭内や居酒屋で話題に上がったり、さらにLINEなどのSNSを通じて拡大します。

 また、現在、テレビ局や新聞社は、一般からの「情報受付窓口」を開設しています。その“出来事”を知った誰かが、メディアの「情報受付窓口」に連絡する可能性もあります。そのような時代環境ということを理解することが大切です。

 

 「隠している」と受け取られないよう、外部から指摘されね前に“出来事”を公開することが必要です。その「透明性」が、信頼の低下を防ぐことになるのでは・・・と思います。
 

余談ですが・・・ 

 退職後を含めて20年間、この 「m3 医療ニュース」の中から“医薬品関連のエラー事例と事件事例”などを選び、必要に応じて、地方紙などの関連情報を集め、MS-PowerPointでスライドにまとめています。

 その作業は面倒ですが、20年も続けていると、それはもう生活の一部。Web上の情報は、突然、削除されることがあります。削除される前に、本日も作業を続けます !!