2000年代に“医薬品使用時のエラー” に注目が集まりました。ただ、医薬品には、もともと「有害な作用」という“risk ”があります。また、「有害な作用(risk)」が全くない医薬品には、「有益な作用(benefit)」も期待できません。

 

 薬物治療では、病気の特性と患者の状態に合わせて、“risk と benefit のバランス” を判断し、その患者にとって最良の医薬品を使用することが基本です。

 

 薬物治療中は、医薬品の有害な作用(risk)から患者を守るために、継続してバイタル・サインや臨床検査値の確認が行われます。

 ところが、必要な臨床検査を忘れたり、せっかく検査していたのに結果の確認を忘れたりして、患者に大きな健康被害が起きたという事例が何度も報道されています。 
 今回は、この問題がテーマです。

 

必要な臨床検査を忘れた事例
 最も知られている事例は、抗体薬「リツキシマブ」をB型肝炎ウイルスキャリア患者に投与中、ウィルス検査を行わなかったことから、B型肝炎が再燃・悪化して患者が死亡したというものです。

 厚生労働省は2007年2月、「医薬品・医療機器等安全性情報(No.233)」で、5件の死亡例を含む6症例(2004年11月4日~2006年12月11日)の概要等を提供しています。

 

 これに先立ち、2006年12月21日、厚生労働省から「リツキシマブ(遺伝子組換え)によるB型肝炎の増悪等について」という通知を、指導を受けた企業からは「B型肝炎ウイルスキャリアにおける劇症肝炎」という安全性情報(ブルーレター)が出されました。※下線部分をクリックすると、本文を参照できます。

 

 そして、医薬品添付文書の「重要な基本的注意」に「本剤の治療期間中及び治療終了後は継続して肝機能検査値や肝炎ウイルスマーカーのモニタリングを行うなど患者の状態を十分に観察」との記述が追加されました。

 ただ、残念ながら、この部分を読んでも、「具体的にどのようなことをすれはよいか」が、医師には伝わりません。

 

 その後も、医療事故情報収集等事業 第34回報告書(日本医療評価機構、2013年9月25日)で、2013年4月1日~6月30日に報告のあった4例の概要をまとめています。この報告書では、添付文書上の 「B 型肝炎ウイルス再燃の注意喚起のある薬剤」として多くの医薬品が挙げられています。

 

 それでも、2019年11月に、県立がんセンターという専門施設で同じような事例が起きたとの報道があり、悲しい出来事は繰り返されています。


検査値の確認を忘れた事例

 また、せっかく検査が行われているのに、検査値の確認を忘れたために“検査値異常”に気づかずに、投与を続けたために患者が死亡したという報道もあります(2018年6月)。


 この事例については、連載していた「日経 DI online 」のコラムで詳しく説明していますので、ご参照ください。

 

 この事例は、外来患者のケースです。24時間フォローしている入院患者と異なり、外来患者では看護師や薬剤師の関与が少ないことも、発見が遅れた原因のひとつと見ています。


 もし、患者(あるいは患者家族)が、「重大な副作用の初期症状」と「異常に気付いたときに直ちに医師か薬剤師に連絡する」ということを理解していたのなら、避けることができたかもしれません。

 

 外来患者については、「重大な副作用の初期症状について十分に説明する」ことが必要です。説明用の資材としては、製薬会社各社が提供しているものを利用できます。

 また、「くすりの適正使用協議会」が web で無料提供している患者向け「くすりのしおり」も役立ちます。これには、好ましくない副作用の“初期症状”が書かれてるだけでなく、一部の医薬品では、英語版も用意されています。

 

臨床検査が必要な医薬品リスト
 今回、「リツキシマブ」を中心に書いてきましたが、医薬品添付文書の「警告」、「禁忌」と「重要な基本的注意」欄で、患者の安全確保のための「臨床検査」を求めている医薬品は少なくありません。

 

 これらをまとめたものがないかと探したところ、東京都病院薬剤師会が作成し、ホームページ上で公開している「使用にあたり検査を必要とする医薬品一覧」が見つかりました。

 ここでは、医薬品添付文書の「警告」「禁忌」「重要な基本的注意」などで求められている投与前スクリーニングと投与中モニタリングが必要な検査項目を、57品目についてまとめられています。 ただ、残念ながら、公開日が2019年7月1日で、その後の改訂は行われていないようです。

 

 新薬の年間の承認数は50~60件です。ただ、個々の病院や薬局でリストを作成するのは負担が大きいだけでなく、リストの情報内容がそれぞれ異なるのも問題です。

 

 そこで提案ですが、全国組織の職能団体(薬剤師会や病院薬剤師会)あるいは、「くすりの適正使用協議会」と日本製薬工業協会で標準様式(MS-Excel形式など)を検討し、情報入力は製薬会社各社に依頼し、まとめたリストを webで公開することはできないものでしょうか? 

 

 私なりの案をお示しします。持続できるよう、情報は必要最低限がよいと思います。もちろん、ホームページ内の情報とのリンクも可能です。
 患者を守るための工夫なので、会社の製薬会社にとってもメリットがあると思いますが・・・