毒薬でも劇薬でもない、普通薬の電解質注射剤なのに、急速に静脈内に投与すると死に至るというハイリスク薬が注目を集めました。
それは、注射用高濃度カリウムです。
今回は、そのひとつ「アスパラ™カリウム」注射剤の安全対策について振り返ります。

本剤は、2003年から2009年の6年間に3回も、製剤本体に貼られたラベル表示が変更されています。

 

ガラス容器時代は、「アスパラK」と、「K」の部分は赤字になっていました。

また、ラベル裏面にも、「点滴静注用です」との注意が印刷されていました。
これらの工夫は、安全対策として有効でした。

ところが、別の問題に気づきました、
それは、看護師は、必ずしも「K=カリウム」と理解していないという点です。

このことを製薬会社側は理解し、2005年10月に、

商品名を「アスパラKから「アスパラ カリウム」に変わりました。

安全面での改善を行ったこの会社には、もうひとつ別の問題がありました。

この製薬会社は、滋養強壮ドリンク「アスパラ™」を販売していました。
「アスパラ」は、この会社にとって大切な商標でした。
このため、2005年に商品名を変更した後も、上の図のように、

赤字で書かれた「カリウム」に比べて「アスパラ」の方が大きなサイズでした。

 

そこで、ある調査結果を示して、「アスパラ」部分と「カリウム」部分の文字サイズを変更することを、この会社に要望しました。
 アスパラ カリウム → アスパラカリウム

 

その結果、2009年3月に、現在の表示に変わりました。
そして、商品名表示の改善だけでなく、赤地白文字で書かれた「要希釈!」や「薄めて点滴!」という使用者への注意メッセージも強調されています。

製薬会社としても、安全対策のためにかなりの労力とお金を費やしたと推測します。


製薬会社のこの努力を、2009年10月に行った調査で確かめてみました。
調査対象の医師、看護師と薬剤師すべてのグループで、最も薬効が分かりやすいのは、3回目の表示であるという結果でした。


 

余談ですが・・・
一般名の「アスパラギン酸カリウム」について、ある調査を行いました。

というのは、

この医薬品名から薬効を正しく理解されないのでは・・・という心配があったからです。
調査は、医師、看護師と薬剤師を対象に行いました(2007年1月~3月)。

その結果は、次の図のように、予想を超えるものでした。
本来の効能「電解質補給」との回答は、3職種すべてで60%以下でした。

この調査結果は、「薬事日報」で紹介されました(2007年3月24日)。

注射用製剤は、希釈時に混じり具合を確認するために、ビタミンB2を加えて黄色に着色しています。
着色は安全対策のひとつですが、

見た目でビタミンや滋養強壮薬と勘違いする危険性もあります。
 

販売会社に、この調査結果をお知らせしたところ、

「アスパラギン酸 カリウム」という表示に変わりました。

当時、「そんなこと、調査しなくてもわかるじゃないか !」という意見をいただきました。
ただ、調査対象が限られた集団であっても、実際に調査し、その結果に基づいて提案を行うことで。改善につながる ことを、何度も経験しています

 

“フィーリング から エビデンス ・・・これもまた、Key Sentence です。