リトルミイは、

「おとなしい」のではなく、自分からしゃべらないだけなんだ。

何を考えているのかわからない。いわゆる自閉症。

ときどき、「疑問に思うことは多々あり…」なんてことを言う。



だったら、はっきり言ってごらん!

と、怒鳴りつけたくなるが、それをしたら負けだ。

機能停止に見えても、リトルミイのアタマの中では、

ものすごい勢いで思考回路がグルグルしており、

それを適切に言葉にできないだけなんだから。


半年も働いていれば、

当然知っていると思われる業務を依頼すると

「そういうことは、一切教えてもらってないので。」

「そういうことは、全然教えてくれなかった。」

などと、恨みがましく反抗的に口ごたえする。


口数が少ないだけで、従順というワケではない。


「じゃあ、教えてあげるからやって。お願い。」

と、強引に仕事をさせるが、

自分の気に入らない業務は、なげやりにテキトーにする。

おまけに、職場のあちこちの人間に、

私から不本意な仕事を頼まれたと不平を言い散らす。

この辺の行動は、すこぶるわかりやすい。


ミムラ姉さんに、

「私、リトルミイさんのご機嫌を損ねたようだけど。」
と、さぐりを入れると、
「はい、向うの部屋で、いろいろ訴えられました。」
「そう、お嫌なら
契約更新していただかなくてもいいのよねえ。」
と、わざとつぶやいておいた。


ミムラ姉さんが、そのことを
リトルミイに伝えるのがわかっているので。



それからというもの、
リトルミイは、さらに「おとなしい」。
ますます、何を考えているのかわからなくなった。


指示待ちアンドロイドで、
こちらから何もお願いしなければ、何もしないか、
と思いきや、何もないときは、ひたすら掃除をする。

ある日、リトルミイの気配がしなくなり、
あれ?どこ行った?と心配していたら、
ドアの陰にすっぽりとはまりこんで
姿が見えなくなっていた。


開けたままにしておく部屋のドアの陰になる壁には、
月刊予定ホワイトボードが設置してあり、
ミイは、それを新品同様にピカピカに磨き上げ、
会議別に作成してあるマグネット表示を
色別に左揃えでピッシと並べ替えていた。
会議予定も、きっちり書き直してあった。
彼ら特有の下手くそな文字で。


「あら、ミイさん、ありがとう。
ミイさんは、きれい好きね。」とご機嫌をとったら、
それからは、部屋中を磨きだし、
しまいには、黒ずんだ決裁箱まで磨きだした。


部屋がきれいになるのは、大変結構なことなのだが、
派遣社員さんには、
もっと、違うことをしていただきたい。




ええ、あたくしが、
上手に指示できないのがいけないのですよね。
悪いのは、あたくしですか?

異動してからというもの、毎日、定刻で帰れない。

ある程度覚悟はしていたが、せめて19時くらいに帰れれば

デパ地下にも寄れるし、買い物もできるのだが、

週に3日は午前様になってしまう。


これもa症候群でまだらボケの前任者に、

ファイリング能力がまったくなかったおかげなのである。


それを補うために、派遣社員を雇っていたはずなのだが、

雇われたリトルミイもa症候群。

1から10まで、指示をしなければ動かない。

前任者は、管理職になっていたが、何かを管理する能力はまるでなく、

適切な業務指示もできなかったのだろう。


聞いた話だが、リトルミイの前任の派遣社員は、

まだらボケに向かって「指示が適切ではない。」と腹を立て、

自分の派遣会社の営業を呼んできて、

適切な業務指示を与えるよう業務改善を申し入れたそうな。


まだらボケは、

「あたしは、業務指示なんてひとにしたことがないし、できないので

あなた、教えてください。」

と、派遣会社の営業さんに頼んだそうだ。


なんたる恥。うちの会社が馬鹿会社だと思われる。


もっとも、まだらボケを課長職にしたくらい、

馬鹿会社なのは確かなんだが。


で、その派遣さんはいなくなり、リトルミイを雇ったんだと。

理由は、「おとなしいから。」



おとなしく見えるのは、外見だけだということを

見抜けなかったまだらボケは、やっぱり、、、

もう、いいです。

もう、イヤ、こんな会社。

でも、給料もらえるから、あたし、辞めない!


マルコビッチはわりと好きで、映画「マルコビッチの穴」はわりと好き。



職場のリトルミイの言動には、驚愕することばかり。


カサブランカが飾ってあった花瓶、

カサブランカが枯れてしまったので、

リトルミイに花瓶を片づけるようにお願いしたところ、


「この花瓶のしまってあった箱はどこですか?」


え?あたしが着任したときには、飾ってあったし、

通常、こうした花瓶の箱なんか処分されてるでしょ。


「箱が必要?」

「割れてもいいんなら、いいですけど。」

「ミイさんは、どうしたいの?」

「向こうの部屋にコピー用紙が入ってた空き箱ありましたよね。」

「ええ。」

「あれをください。」

「いいわよ。」


ミイは、花瓶をプチプチでぐるぐる巻きにして、

コピー用紙の空き箱に入れて格納した。

通常、いつも使う花瓶は、テキトーに流し台下に格納しとくんだが。



ボス部屋に我々も入り込んで執務しているのだが、

ミイは毎日お弁当。

弁当は、どこか、別の場所で食べていただきたいのだが、

前任者が、デスクで食べることを認めていたため、

あたしが、いきなり、お断りすることができない。


でも、昼休み時間に、ボスに来客予定があるときには、

当然、アシスタントに自席で弁当を食べていてほしくない。


で、ミイに、「今日は昼に、ボスに来客があるから。」

と、事前に予告したところ、

「あたしがご飯を食べているのに、来客をお通ししていいんですか?」と。


え???


ここ、アンタの部屋じゃないでしょ。ボスの部屋。

だから、ボスに来客があるんだから、あんたがどっか行くべきでしょ。


そしたら、ミイ「なので、あたしは昼休みをずらします。」と。

いやいや、それもおかしいから。

なんで、一事が万事、あんたのお弁当が優先なのか?と。



どうも、心得ちがいをしているようなので、

別の日には、「昼にボスに来客があるので、

今日はここでお弁当は食べないでください。」と、事前予告したところ、

ミムラ姉さんが気をきかせて、ミイを連れ出してくれたんだが、

ミイは終日不機嫌。

あちこちで、あたしへの不満をこぼしていたという。


でもね、あんたの考えが間違ってるから。

替えは、いくらでもいるんですよと。





自分が、だんだん、イヤな人間になっていくなー。


ついったーで遊ぶようになってから、こちらのブログは休眠状態だったが、

ネタに事欠かないようになったので、ちょっと再開。


4月1日付で配置換えとなり、

以前担当していたような秘書業務に戻った。

前任者は、a症候群だったらしく(昨日、初めてひとから聞いた。)

その驚異的な記憶力で業務を遂行していたため、

マニュアルや引継書が一切ない。


その一方で、ファイリングは全く苦手だったらしく、

人事などの機密文書とイベントのリーフレットが

入り乱れて紙袋に押し込んであった。

彼女の私物の定期購読雑誌なども同じ紙袋に入っていた。


次から次へと飛び込んでくる仕事の段取りはさっぱりわからないし、

前回の記録を調べようにも、

どこに保管してあるのか探しまわらないと出てこない。


引継期間は1週間あったが、全く要領を得ず、

彼女が自分の興味で始めた分掌外と思われる業務、

つまり彼女しかわからない業務の事情聴取を優先したため、

通常業務までは聞き出すことができなかったのである。


こちらから質問したことには答えるが、自分からこれが必要だろう、

ということは推測ができないみたいだった。

もっとも、前任者は定年退職なので、

年齢によるものか障害によるものか判断はつかないんだけど。




新しい部屋には臨時雇用のアシスタントが2名いて、

昇格はしていないが部下が2名できた。

部下と呼んでは失礼で、助けていただいている。


この二人のうち、ひとりが、これまたa症候群らしいのである。

ものすごく気がきくなあ、作業が早いなあ、と感心する一方で、

こちらの指示の仕方が悪いと、機能停止状態になる。

黙りこみ、大きな目をきょろきょろさせたら、

「理解デキマセン」のサイン。

リトルミイにそっくり。


ちなみに、もうひとりは、幼稚園から女子大まで

同じミッション系のところに通ってらした元お嬢様。

元、というは、年齢がすでにアレなので。

一般企業での就業経験はなく、

結婚後、子育てに手がかからなくなったので

いや、子どもの学費が家計を圧迫し始めたので、

パートを始めたというようなひと。

そういえば、なんでパートに出る気になったんだろ?

で、ミムラ姉さんみたい。


ミイに話をもどそう。

私が「わかりやすいように紙に書いて貼っておきましょう。

メモ用紙とマジックは?」

というと、メモ用紙とマジックが、さっと出てきて、

私が書き終わるやいなや「どうぞ」というカンジで

セロテープ台の向きをさっとこちらに向けてくれる。


「××課の××さんから、

《私》さんのメールアドレスを教えてと言われましたが、

教えない方がいいんですよねえ。」

と、本人の了解なくむやみにメールアドレスを

教えるのはよくないこともわかっている。


しかし、物品と請求書がいきなり届き、

私がその扱いに苦慮していても知らん顔で、

「ねえ、《リトルミイ》さん、これ、いつもどうしてるか知ってる?」

と質問してはじめて、

「それは、ここにラベルを貼って、

請求書は明細を添付して入力をして…」

と、「なんや、おまえの担当業務やったんかいっ!」とわかるのである。

声には出さないけれど。もちろん。

そして私はへなへなと膝の力が抜けてしまうのである。

吉本新喜劇みたいに。


「ああ、ミイさんが今までしてくださっていたのね。

これからもお願いできますか。」

とお願いすると、

まあ、やってもええでみたいな顔で無言でうなづく。


彼女は高性能なアンドロイドだと思って接すれば、腹も立たず、

きちんと指示をすれば、期待以上の成果を出してくれる。

私みたいな凡人と違って、

本当に脳みそがコンピューターみたいなんだと思う。

だから、0か1か、true or fault、

はっきりした言い方をしないとループ状態、

「理解デキマセン理解デキマセン」となってしまう。


お互い効率的に働くためには、

どう指示をしたらよいか常に考えなくてはならず、

指示がまずく、機能停止されたときの

復旧メンテナンスに時間がかかるので、

この一週間で、すっかりくたびれてしまった。



スナフキンになって旅に出たい。

5回連載をして、自分には文才がないことを再認識した。

今更、脚本家になろうとは思っていないから、安心してほしい。


この続きは、

殺人事件を起こして、

イケメンの陰陽師や、トレンチコートの警部補に謎解きさせるのもいい。

別腹の兄がでてきて、関係がややこしくなるのもいい。

官能小説風に、

大藪春彦チックな濃厚なベッドシーンが延々続くのもいい。


続きは、誰か別のひとにおまかせしようと思う。

あなたは、三人のうちの誰に感情移入するだろうか。


数日間、お付き合いいただきましてありがとうございます。