今年のノーベル物理学賞が日本人の3人の学者に贈られることになりました。
最近は毎年のように日本人がノーベル賞を授与されて、日本の学問のレベルの高さがうかがえてうれしいですね。
さて今回の受賞者の一人のカリフォルニア大学の中村教授は10年ほど前にも世間を騒がせましたよね。覚えていますでしょうか。
発明した青色LEDによって勤めていた会社が大もうけをしたにもかかわらず、自分自身に十分な対価が支払われていないと訴訟を起こしました。
企業と研究者の関係について、当時も色々と議論をよびました。今回の受賞でこの話題がまた議論されるのでしょうね。
当時私は大きな違和感を持ったことを覚えています。
アメリカの会社では、特に研究者は、入社の際に発明に関しての特許権が会社に帰属することを認める契約書にサインをさせられます。
日本の会社では、少なくとも当時は、そこまでの契約書を交わす会社はまずありませんでした。
法律的には特許は個人の物ですから、このような契約書を交わしていなければ、訴訟を起こすことは法律的には何も問題はありません。それは私も十分わかっています。
ただメンタリティーとして何か腑に落ちませんでした。
発明によって会社は大きな利益を得ました。ハイリターンですね。
しかし会社は結果がどう出るか分からない研究に、ヒト、モノ、カネを多くつぎ込みました。ハイリスクですね。
発明した一研究者はどうでしょう。
会社員という安定した職につき、安定収入を得て研究をしていました。ローリスクですよね。
ローリスクの者がハイリターンを当然のごとくに望むのが私には引っかかります。
もし研究者が数年契約で、成果がでなければ契約を打ち切られるという状況なら、ハイリターンを望むのは当然のことだと思います。
一般の会社員であれば研究者も営業も総務も経理も皆そう簡単には解雇されず、普通に仕事をしていればそこそこの昇給もあるだろうと思います。とても安定していますよね。
当時日本の体制を「腐っている!」と称したこの方はアメリカに渡りました。
アメリカは契約社会ですから、一般社員として特許権を放棄してローリスク・ローリターンを選ぶか、身分が安定しないが収入の大きいハイリスク・ハイリターンのどちらかを選ばなければいけません。いかにアメリカでもローリスク・ハイリターンの契約なんかをしてくれるところはありません。
ご本人もアメリカに渡られて10年以上経ち、そのあたりはよくお分かりになったのではないでしょうか。
今回の受賞後の会見でも10年前とは若干トーンが変わってきていました。
「日本では起業が難しい。」と主張されていました。これは正しいと思います。自らハイリスク・ハイリターンの環境を作るのが難しいということだと思います。
会社というのは研究者だけで成り立っているわけではありませんし、営業だけで成り立っているわけでもありません。
研究者がいて、製造者がいて、営業がいて、それらを支える経理や総務がいて会社は成り立ちその総合力で利益をあげているのです。
社員である一研究者に何億円も払うようなことになっていけば、企業は自社での研究開発をやめて既存の特許に特許料を払うローリスクな方法を選択することになり、結局は研究者たちを取りまく環境が厳しくなっていくのではと心配します。
ローリスク・ローリターンの道とハイリスク・ハイリターンの道の二つから選べるようになればいいなあと思っています。