イランの落とし穴
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妊娠する

去年の9月に妊娠がわかり、現在7ヶ月になった。


妊娠がわかった時は喜んだのもつかの間、つわりがやってきて、約1ヶ月半で5kg体重が減った。

つわりといっても、おえおえ吐いたわけではなく、

私の場合はただひたすら超ヘビー級の胸焼けが絶え間なく続く状態。

吐いてしまえば一時は楽になるらしいが、何故か吐くことは一度もなかった。


つわりの時はあまりの気分の悪さに


               “も、もう、む、無理・・・ギブアップ!(m;_ _)mlll

                          

リング上で喘ぎながら床に手を何回もバンバン打ちつける軟弱レスラーと化していた。


仕事はいつもの半分以下のペースでしかできなくなり、座ってるだけできつい。

目が死んでうつろになる。

医務室で横にならせてもらうと、天井のどこか一点をただただ無心で見つめるしかなく、

はたから見ると強敵にやられて、

敗北して医療用ベッドの上で呆然とするしかない貧弱レスラーだ。

リングを囲む観客席からは逆さにされた何本もの親指とブーイングの声が聞こえる。


つわりの時期に私の身体の中で感じたことを言葉で説明すると、


    “なんだ!!??あたふたお腹の中に異物ができてるけど、これはなんだっ!!??あたふた


ミクロサイズになった何億もの私が血の中を四方八方に慌てて駆けずり回っている感じ。

身体でそう感じながら、ポッと頭の中に沸いて出てきた画は、

大量の蟻の行列を指で崩した時に起きるあの慌てふためき様だ。アリ

あれが体内全部で起きてる感じ。


      “わー!わー!なんだ!なんかおかしいぞ。腹の中に何かが侵入したぞ!ありあせ


身体の中の蟻全部が好き勝手に何億もの声で叫ぶ。

こんだけ叫ばれたら、そりゃあ、気分も悪くなるわ。

つわりって、きっと何億もの細胞の悲鳴なのだ。




つわりの時期は食事ができないのにプラス、嗅覚が異常に鋭くなる。

とにかく無臭の空間を好む。

洗濯物の匂い、ご飯を炊くときの匂い、アレジの香水、道行くイラン人の体臭、全てダメ。

イラン人の体臭なんてつわりじゃなくてもダメ。

体臭持ちの敵がリング上に上がろうもんなら、

敵は技をかけることなく私は即座にノックダウン。チーーン!

会場内の空調の風向きによるかもしれないが、

下手すると敵がリングに上がる途中、ロープに足をかけてまたぎ始める時にノックダウン。

カーン!×3 ゴングが響く。ゴング

敵はなんとも楽にチャンピオンベルトを手に入れたもんだ。



病床にて私は思いにふける。

体臭レスラーに完敗してしまった私はここで引退するわけにはいかない。

こんなに弱くても、私には心配してくれる友達、自分のペースで仕事をさせてくれる職場の皆、

病床にお見舞いに来てくれるイランの家族、日本で楽しみに待っててくれる日本の家族、

看病してくれるアレジがいるのだ。

こんなとこで負けて消え去るわけにはいかない。

今この時期に耐えて耐えて耐え抜いて、

いつかあの体臭レスラーからチャンピオンベルトを奪わないといけないのだ。

長く辛い1日1日がスローモーションで過ぎていった。

そして、なんとか再びリングに上がれる日がやってきた。



さすがに会場には貧弱レスラーを応援してくれる観客はおらず、 


            “どーせまた体臭レスラーが勝つに決まってんじゃん。” 人


という空気が漂う中、支えてくれている数少ないファンのため、

私はしっかりとした足取りでリングに上がった。


ババーン! チャンピオンベルトを腰に巻いた体臭レスラーのご登場。

貧弱レスラー相手に余裕の表情。

両側には意味なくセクシー水着を着たナイスばでーなおねーちゃん。胸

とその時。


                あ・・・。 まずい・・・。 これはまずいぞ・・・。


今日の会場の空調の風向きは、どうやら体臭レスラーから私の方に向かっている!!


          

            あっっ!(鼻に感じるあの臭い・・・鼻で感じるデジャヴ・・)


            バタンッ・・・(貧弱レスラーが倒れる音) カーン×3!!



貧弱レスラー、今度は体臭レスラーがご登場と同時にノックダウン。

こ、こんなはずでは・・・ 応援してくれる人達がいるってのに・・・

情けない姿を再びさらすことになり、担架に運ばれて会場を去る貧弱レスラー。


                 “もういい!辞めてやる!!”


涙が出て、いっそのこそヤケ酒でもして飲んだくれてやろうかと思ったが、

レスラーにとってファンの支えというものは非常に大きい。


あれ以後、もう復帰しても大丈夫だろうと戦闘態勢で数回リングに上がったが、

体臭レスラーとセクシーおねーちゃんが登場しては倒れ、また登場しては倒れ、を繰り返し、

貧弱レスラーのベルト奪回はもう絶望的と思われた。


が、貧弱レスラーはあきらめなかった。

勝つまでは何度も何度もリングに上がり続けた。

倒れても倒れても時間をかけてまた立ち上がった。

弱音を吐かず、時にアレジに八つ当たりしながら耐えた。


そして、そろそろテヘランにも冬がやってきたな、と思った頃、

会場の空調が貧弱レスラーの方に向いていても、

体臭レスラーから漂う香りが気にならなくなった。



                        “今日はイケる”


セクシーおねーちゃんに劣らないほどに乳も成長した今日の貧弱レスラーはいつもと違った。

いつの間にか巨乳レスラーになっていたのだ!(期間限定)


                    





                     “今日は絶対にイケる”





そう確信した貧弱レスラーは、

ついに持ち前の期間限定の巨乳で体臭レスラーを倒すことができた!

やった!ついにやったのだ!!



こうして手に入れたチャンピオンベルトは想像していたよりも随分軽く感じた。

その時身体に感じていた重さはベルトではなく巨になった乳の方だった。




                                谷間を作って惚れ惚れしている今日この頃  胸

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