原題の”Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile(極めて邪悪、衝撃的に凶悪で卑劣)”とは、実際の裁判で判事がテッド・バンディに投げかけた言葉である。IQ160の頭脳と美しい容姿で世間を翻弄し、”シリアルキラー”の語源になった稀代の殺人鬼テッド・バンディ。30人以上の女性を殺した罪で死刑に処されているが、その余罪の全てはあきらかになっておらず、本当の被害者の数は誰にも分からない。この作品は、テッド・バンディの恋人だったエリザベス・クレプファーが彼との日々を綴った著書「The Phantom Prince:My Life with Ted Bundy」をベースにしており、彼を愛してしまった女性の目線で描かれている。したがって観ている側も、まるでテッドが悪人に思えず、冤罪で裁かれているような感覚に陥ってしまうのだ。後々はっと我に返りゾッとするのだが、それこそがこの作品の真髄である。当時、テッドの邪悪な魅力に翻弄された人々がいたという事実。見た目が良く話が巧みな点に価値を置く米国社会において、「感じがよくて魅力的な白人男性だからといって信用してはならないのだと若い世代に警告したかった」と語るバリンジャー監督の思惑通りだ。下級階級の私生児として生まれたバンディは、大学の頃に出会い交際したステファニー・ブルックスに失恋したことで、深い挫折を味わった。やがてその屈辱は「上流中産階級の女」を完全支配するという欲求に変わり、彼を強姦殺人へと駆り立てたのである。のちにバンディの弟は「兄をおかしくしたのは、ステファニー・ブルックスに出会ってからだ。あの女にさえ会わなければ、兄は殺人鬼にならなかったかもしれない。」と語っている。テッドが標的にした女性には共通の特徴があり、犠牲者のほとんとがストレートの髪を真ん中で分けていた。それはブルックスの髪型だったという。その凶行を調べれば調べるほど、スクリーン越しにテッド・バンディという怪物にかつがれそうになったことを薄ら寒く思うのだ。