昨今、付け下げ の需要が大変多くなってまいりました。

「訪問着は、来ていく機会が少ないので つけ下げを」と、ご要望のお客様が増えたのです。

40代はじめの奥様、お母様とお見えになりました。
ゆっくりのご結婚、お子様も2才になったばかり。
花嫁道具も揃えてあげれなかったので、今後の為に一つお着物を誂えてあげたいとのお母様のご希望です。

ご主人はお店を経営、若いスタッフもいらっしゃいますから、今後そういった方々の結婚式や、お子さんの成長に合わせたお祝いの付き添いに、お召しになれるお着物を、と言うご要望でした。

訪問着をお勧めしましたが、付け下げがよろしいとのこと。

ママ友の間でも一番の年長さん。
派手な訪問着で、琢ちゃんママひとりで頑張ってる💦と、言われたくないのだと………。

なんとまぁ……残念な事。

一先ず、前回迄の礼装着のお話と、付け下げの成り立ちをご説明しました。

礼装着には、婚礼衣装、黒紋付き、黒留め袖(五つ紋付)、本振り袖、喪服と、結婚式や公的な儀式等 格式を重んじる場面に装う「第一礼装」が先ず有ります。

次いで「略礼装着」として、色留め袖(黒留め袖よりはややくだけて、三つ紋や一つ紋で格式有るパーティー等にも)、訪問着、振袖と、続きます。
ここまでが、絵羽模様の着物になります。
着尺地になりますが紋付で色無地、江戸小紋も、このくくりに入ります。

次いで「外出着」のくくりで、付け下げ、付け下げ小紋、小紋、絞り、お召、となるのです。

本来、第一礼装着の他は外出着として訪問着を着用していました。
読んで字のごとく、観劇や、大切な方のお宅を訪問する際も訪問着ですし、お食事やパーティー等にも、幅広く着用されていたのです。
今でも歌舞伎等の会場では、梨園の奥様方は訪問着で忙しくお客様の対応をされていますね。

少し歴史のお話をしますと、第二次大戦時、この 訪問着 が贅沢華美なモノとして、その着用を禁止されてしまうのです。

ですが、戦時中と言え、結婚式だって、大切な方のお宅を訪問することだって有りますよね。
礼を重んじる日本人、そんな時、普段着で出掛けるわけはいきません。
そこで生まれたのか、付け下げ なのです。

仮仕立てをせず、反物のまま前身頃 後ろ身頃共、柄が上を向くように着尺地のまま簡易に染めた、柄の続かない着物です。
これが、付け下げ の成り立ちになります。

戦後、日本は瞬く間に復興を遂げ、国民総中流家庭なんて時代がやって来ました。

お茶や、お花と言った、お稽古事も良家子女の花嫁教育であったのですが、皆が嗜めるようになったのです。

そこで再び、付け下げ が脚光を浴びます。
お手前で、普段着は失礼、訪問着では格高、と言ったところで、付け下げが重宝されたのです。

それともうひとつ、洋服に慣れた現代の人は、礼装着に見る晴れやかな色目と柄が、どうしても受け入れがたいところが有るようです。
1日の大半を着用する通勤着は、白、黒、紺、ベージュ、茶、グレーのいづれも無地ではありませんか?。

ここでも、やはり色目柄目を抑えた付け下げの方が安心して着ることが出きる、と言うことではないでしょうか。

洋服は、デザインにより様々な形と個性を作れますが、着物は全て同じ形。
色目と柄ゆきで、来ていくシーンが決まると言って過言ではありません。

まして、結婚式などで訪問着の方がいらしたら、やはり格の上でも見た目でも経営者婦人として、肩身の狭い思いをされるのではと思いましたのでやはり、訪問着をお勧めしました。

正倉院華紋と言う、伝統的な古典柄が配され、落ち着きの有る中に品有る華やぎが添えられた淡いベージュの訪問着です。
合わせる帯によって、華やかにもシックにも装えますし、今後長くお召しになれる柄でもあります。

これならば、ママ友に、頑張ってるなんて言われないでしょう。
可愛い僕の幼稚園から、大学の卒業祝いまで、お召しになれます。

いかがでしたでしょうか?

訪問着と、付け下げ の使い分け。
少しは参考になりましたでしょうか。

付け下げ は、訪問着にくらべて安価ですし、お勧めしやすいのです。
ですから、スタイリストの中でも、安易に結婚式でも装えますと、お勧めする人が有るのですが、以上の歴史や格式をしっかりと学ばれて、自信を持って、その場に相応しい装いのチョイスをしていただきたいと思うのです。

次回は、もう少しこのお話を掘り下げてから、賢い礼装着の揃え方と、お手入れについても触れていきたいと思います。

本日も、ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました。

                                                     咲くや