早朝の道の駅で道を尋ねられた。
声を掛けて来たのは超大型バイクの爺さんだったが、どっからどう見てもオレなんかより装備は万全な上、目の前にはデカデカとした案内図があるんだからそれ見りゃ分かるだろと思うのだが、こういったタイプが持つ真の目的は別なところにあるのである。
「いや、多分方向が違うんで全然分かりません」
迂闊だった。
パッと見だと旅行者には見えない筈のオレが何故しょっちゅう声を掛けられるのかと言えば、それは間違いなくナンバープレートが原因だ。
なので普段はケツを突っ込む様に駐輪する事を心掛けているのだが、早朝の、しかもド田舎の空いた道の駅だとほぼ貸切り状態なため、トイレに一番近い場所に停めたままで休憩する事が多い。
長良川と聞き、すぐに五木ひろしを思い浮かべるのはオッサンの証だな。
が、ひろしと言えば『待っている女』
「お兄さん、どちらから?」
んなもん、ナンバー見て話し掛けてきたんやから分かってるやろと思いながら、ヤレヤレ気分で大阪と答える。
「郡上八幡は、もう行ってきた?」
「いえ、行ってないですね」
こういった人種は、とにかく誰かと会話したいのだ。
口では『誰かとつるむのは苦手。一人旅が一番楽』と言いながらも、常に話し相手を探している面倒な人種なのである。
「あっ、もう何回か行っちゃってるんだ?」
「……いや、まだ一回も行った事無いですね」
「えーっ?何で!? 勿体無い」
出たよ……【旅のマウント取り】が。
分かったからアッチ行け。アッチに座って大人しく光合成でもしとけ鬱陶しい。
「仕事で来てるだけなんで……」
「あっ……ごめんね、てっきり全国周ってるのかと…」
【仕事で来てるんで】は魔法の言葉だ。
これを口にするだけで、絡んで来た旅行者は98%の確率でその場から離れて行く。
「あ~、建築系とか?」
「いえ、主に冷蔵庫の部品を製造してます」
「ふ~ん……」
聞かれた事に合わせて答えると、そこから話が広がる危険性がある。
大事なのは普通の人が興味を持たない職種で返す事だ。
が、アンテナはオレの方を向いていたのは間違いない。
大体、相手が自分より若かろうが何だろうが、初対面でタメ口きくヤツってのはロクな人間がいないとオレは思っている。
そういうのをウリにしているアホなタレントがテレビでも目につく昨今だが、アレの一体どこが面白いのかオレにはさっぱり分からない。
考えが古いと言われればそれまでなのだが、そう思うんならそれで結構。新しい考えの連中同士で、楽しくやってくれればいいのである、
そっちで行く。
「じゃ、お気をつけて」
なかなか離れようとしない爺さんに痺れを切らし、そそくさと道の駅を後にする冷蔵庫主任なオレ。
別に人との出会いが全て嫌いな訳じゃないし、他人から思われてるほど人間嫌いなタイプじゃない。
が、普段から接客を仕事としていると、しかも接客という仕事が向いてないのを自認しながら接客している人間にとっては、一人で旅をしてる時くらいは一人がいいのである。全ての旅人がいつでも出会いを求めているとは思わないでほしい。
なんて事を言うと冷血人間みたいに思われそうだが、そういう時って結構あるよな。
が、問題は不審者に見られがちなとこ。