まだ月が上ったままの早朝5時。


昨夜は他に何組かの宿泊客がチェックインした様で、案の定夜中までミシミシゴソゴソアハンウフンに悩まされた。

こういう悪い予想だけは的中するんだわ、オレの場合。






めちゃめちゃ寒かった郡上の朝。
でも田舎の朝はいいね。




「…ん……うう~~ん………」



トイレや洗面所へ行く度に他の客室前を通るのだが、昨夜のお返しとばかりにミシミシドスドスガサゴソいわせるオレ。
その度に襖の向こうから寝苦しそうな唸り声が聞こえてくるのだが、夜の夜中まで同じ事をやられたオレの苦しみが少しは分かったか?
音の漏れやすい安宿では早寝早起きが暗黙のマナーというものだ。特に若いカップルはいい加減にしとけっつーのっ!もっと防音設備と耐震設備が整った宿に泊まれや!気になって眠れんだろうがああああーっ!!






昨日の肥満オヤジが乗って来た車が早朝の寒さを物語る。
フロントガラスに落書きしたくなる気持ちを抑えるのに必死だった。




一通りの身仕度を終えた頃には腹もペコペコだ。
見た目がチャラい感じの兄ちゃんでは朝メシの内容も期待薄だが、コンビニ弁当で済ませるよりは全然マシだろう。
予約していた時間通りに隣接のカフェへと迎い、裏の畑が見えるテーブル席へと腰を下ろす。



「おはようございます、◯◯様ですね?昨日は大変申し訳ございませんでした」



お冷やと温かいお茶を持って来たのは、あのチャラい兄ちゃんの奥さんだろうか。
なるほど、この小洒落たカフェは若夫婦のセンスでこうなったって訳か。
が、店の中にまで漫画を並べるのは止めといた方がいいぞ。せっかくの落ち着いた雰囲気が一撃で破壊されとるし。



「あー、いえいえ。ゆっくり出来ました」



まさかこの若奥さんに『いや~、隣のカップル客が発情期で大変でしたわ』とも言えず、当たり障りの無い言葉でその場を誤魔化すオレ。
すぐチェックアウトするのに下らないクレームなんか入れるだけ無駄だ。
が、部屋の配置だけはもう少し考えてくれ。オレが宿主なら納屋に泊まらせるぞ、若いカップルは。






落ち着いた雰囲気の今風カフェ。
が、そこにはやっぱり大量の漫画が……




「お待たせいたしました、ごゆっくりどうぞ」



丁寧でそつの無い接客に好感が持てる宿主夫婦だが、普段は昨夜のオレみたいにアヒルと戯れながらのバスタイムなのだろうか?
そう考えると更に好感度はアップするが、出来ればマブチモーター搭載の潜水艦なんかも用意しておいてくれ。オレが持ってる空母赤城と風呂場で対戦させてみたい。




(やっぱこんな感じやったか……ま、コンビニ弁当よりはマシやな)





宿の朝食。
特筆するものは無いものの、お洒落に纏めようとする気持ちだけは伝わって来る。
が、40点。




ホームページに載ってる朝食のサンプル写真とは差がある気もするが、まあいつもの吉野家に比べりゃ贅沢だよな。
特に業務用じゃない味噌汁を朝に頂けるのは本当にありがたいし、たとえそれが取っ手付きのヘンチクリンな器で出されたとしても味は同じだ。
が、やっぱり味噌汁は木製の椀で頂きたいのと、なるべくなら塩サバはノルウェー産にしてほしいな。この時期の国産は美味くない。
ごめんね、正直で。






食後のコーヒーはバウムクーヘン付き。
ルマンドは無いのかルマンドは(←うるさい)。







「ごちそうさまでした。じゃあ、このままチェックアウトしますんで」



「あっ……ご迷惑をお掛けしました。ありがとうございます、お気を付けて」






ま、元々ゲストハウスとか民宿とかに過度な期待はしない方だけど、それにしてもネットのクチコミってのはどこまで信用したらいいもんなのかね?
カキコミしてる人達ってのは、感動のメーターが最初っから高い位置にあるんだろうか?



一度聞いてみたいものである。












ごちそうさまでした。