小一時間ほど町を散策し、手を繋いで歩くカップルの後ろで別れを祈るなどの悪行を繰り返しながら飛騨を出発。


ここも白川郷と同じ様な単なる観光地だったなと思ったが、中心からちょっと外れれば普通に生活感のある町だったりするのは良かったな。

山間の隔絶された観光地ってのは残念なだけだ(←まだ怒ってる)。









こんな感じのお洒落さんって必ずいるよな、ド田舎には。
その大半はコーヒー豆をアンティークなミルで挽くけど、二週間後にはネスカフェになってる人。オレにも経験がある。




帰りの事を考慮した結果、今夜は郡上市にある民宿に泊まる事にした。
郡上市と言えば郡上八幡だが、そこら辺にはあまり興味の無い方なのでタイミングが合えば寄ってみる事にする。

いや、城下町の雰囲気は嫌いじゃないんだけどね、そこを目当てにしてまで行くかって聞かれたらそうでもないかな。
どっちかっつーと城より田舎の城跡が好きなんだが、大分の岡城跡なんかは最高だな。何が最高かって聞かれても答えようがないけどね。






高山市にある道の駅、桜の郷・荘川。
この後起きる事を天気が暗示しとるな。
ま、いつもの事だが。




(あ、やっぱり降って来たか…)



ナビによる到着時間は後15分程。
雨雲レーダーをチェックした時はギリギリ行けるだろうなーと思っていたが、どうやらギリギリ行けない方に当たった様だ。流石はオレである。



(ヤメて!本降りだけはヤメて!お願いだからヤメて!)



念じれば念じるほど強くなる雨足に苦笑いしながら、残り後10分の道程を宿へと急ぐオレ。
が、パチンコで言えば大当り確率80%の激熱リーチでも確実に外し、大当り濃厚のプレミアムリーチの最中に停電だって引き起こす男。
案の定、峠越え直前には本降りを通り越して土砂降りになっていた。
若い頃から運の無い方だったが、歳を重ねるにつれて益々磨きがかかってきたな、オレの不運も。

が……




(………あら?)



一通りずぶ濡れになった頃に峠を越えると、目指す宿の方角は嫌味の様に晴れていた。
何ならもっとずぶ濡れになり、到着と同時に宿の女将さんがバスタオル片手に飛び出して来るシチュエーションを期待していた。



「お風呂の準備は出来てますので、どうぞそのままお風呂場まで行かれて下さい!」

「いや、それだと迷惑になりますので、靴下だけでも穿き替えます。遅れて申し訳なかったです」

「そんな事お気になさらず、早くそのままお上がり下さい。風邪でも引かれたら大変ですので、さ、早くお上がりになって、さあ!」



そう言いながら濡れたオレの右手を強く引っ張る夏川結衣そっくりの女将、瑠璃子(41歳・未亡人)。
細い指から微かに香る糠床臭が、妙にリアルでなめまかしい。



「あっ、ごめんなさい!私、糠臭いですよね?丁度畑で取れたお茄子を漬けてたから……」


「とんでもない!糠の匂いは大好きですよ。それに、糠漬けがあれば何も要らないくらい大好物です。お願いしたら後から食べさせていただけるんですか?」


「もちろんです!今日はお茄子と長芋と茗荷と大根、冬瓜なんかもございます」



身長は156cm。
キラキラした瞳もそうだが、その小さな体のサイズはガラスの仮面の北島マヤと同じである。



「お湯加減どうですかー?」




磨りガラスの向こうに瑠璃子がいる。

びっくりして頭まで浸かってしまい、見えもしないのに背中を向けるオレ。




「今日は他に予約も無いので、良かったらお背中お流ししましょうか……」











ぬおおおおおおおおおおーーーーっ!!

こんな事が本当にあるんなら、面倒見てる東大阪のラーメン屋を騙してジュエルリング屋にしてもいいぞ!今のオレ!!











ま、そんな事が本当にあったら大阪なんか住んでないわな。










世の中そんなに甘くない。













浅野温子がはめたナットの指輪よりはマシだと思うが………やっぱり売れへんか。