エア出産を終え、長閑な山間の町をテレテレ走っていると、視界の端っこに不自然なカラーが入って来た。




(……ん?何か今、変なモンあったな)




世界遺産さえ平気でスルーするくせに、こういったしょうもない事にアンテナが反応するオレはやっぱり変態だ。

因みに、最近鼻についてイラッとさせられるのはテーブルマジックをしたがるオッサンの指先の動き。

頼んでもないのに『一枚引いてみて』と言われると殺意を覚える様になったのだが、放っといても三年後にはかつての国鉄と同じ運命を辿りそうな気がするので何も言わないでいる。







こんなものを自宅の敷地におっ立てる人間は確実に電波系だろう。
味噌汁の具にもう一品欲しいからと、早朝からタライ舟で海底を突きに出る婆さんと同じ。




(あぁ……こんなとこにも変態が棲んでたか。交通安全祈願はエエ事やけど……やっぱ脳内の受信系統が壊れてるんやろうなぁ……)




そんな事を考えながら民家の方に目をやると、その横にはもう一体同じ様な案山子が立っていた。

が、そこには何やらゴチャゴチャとした文字が書かれており、何が書いてあるのか気になって近付いてみると………














やっぱ変態だわ
しかも超ド級の


尾張  参州  滋賀  泉州………書いた人は元禄生まれなんだろうか?とかそんな問題ではなく、こんだけ悪趣味なモンを自作するエネルギーって、一体どこから湧いて来るのだろう?
寝る前にニンニク卵黄のケース飲みでもしとるのかオマエは?



(エグいなぁ……ま、コロナに罹りたくない気持ちは分かるけど、コロナの人来るなって言われたって本人は分からんやろ?こんにちは、私コロナです。よろしくメカドック♪とか言うヤツなんかいる訳ねえっつーの)




「ナニ~?」

呆れた顔でマジマジと眺めていたオレに、軽トラを停めてある車庫の奥からオッサンが声をかけてきた。
しまったな、さっさと退散するべきだったか。



「あーどうも。ただ見てるだけですよ」



如何にもという風貌のオッサンに向かって平静を装うオレ。
こういう特殊なイキモノは興奮させると面倒だし、何ならバイクのキーを差したままにしといて良かった。



「バカがいっぱい来るから、コロナのバカが」

「………はあ?」



いきなり何を言い出すかと思えば……
まあ、こんなグロいもんを作る様な変人だから通常運転なんだろうが、ここまでタチの悪い鎖国主義も珍しいな。
乾燥させたドクダミの枕で寝てんのかキサマは?



「泉州とか参州とかのバカがいっぱい来るから!コロナのバカが!」


コロナに感染するのがバカだとも思わんし、それを言うなら働きに出てるヤツはみんなバカだろ。
でも、バカになってでも働かねーと家族が途方に暮れるだろうがバカタレ。
つーか、泉州は何となく分かるけど参州ってどこよ?頼むから文明開化してくれ、消臭力愛用の長州力好きな九州人が解る様に。



「オタクはどこから?……大阪?」


愛車のナンバーをチラ見し、急に険しい表情になる鎖国バカ。
近所に住む人達にも有名なんだろな、きっと。



「そうですよ、ちょっと風邪気味なんで近寄らないで下さい」


「え………」


「寒いからかな?ワクチンも射ったし大丈夫だと思いますけどね。ちょっと味覚が無いだけなんで」



途端に黙り込み、そそくさと車庫に戻って行く元禄バカ。
味覚が無くなったのは、初めて同棲した女がタコさんウインナー入りの味噌汁を作った18の時だけだ。安心しろ。



(何や、もう少し絡んでくるかと思ったらもう終わりかい…)



拍子抜けにも程があるなと思いながらその場を後にしたが、田舎ってのはこういうのが目立つから村八分が起きるんだろうな。
都会にも似たようなのは沢山いるが、隣近所との付き合いは無いのが普通なんで楽なだけ。



ホント、田舎移住って隣人次第のギャンブルみたいなところがあるからなぁ……



オレも気を付けなきゃ。











ダム湖の畔で物思いに耽る哀愁の50代。
店の冷蔵庫が半ドアになってないかと気になっていた。