極寒の志賀高原を抜け、やっと雨から解放されたのは中野市に入ってからだった。


人里とは何と暖かいものなのだろうか。

20分前までは13度だった気温が、道の駅で一息ついた時には30度である。

一体何をやっているのだろう、長野は。




(ん?…………ゲッ!?また雨雲近付いてるやん!しかも雷注意報出てるし!)




あともう少しで長野市内に入ろうかという所で雨雲レーダーをチェックすると、恐ろしい程の濃い赤を中心とした巨大な雨雲が近付いてきているではないか。しかも約15分後に。




(もおおおおおおおーーーーっ!!せっかく合羽から解放されたと思ったらまたかーーーっ!!)




信号待ちでこれから目指す方角を見てみると、そこには確かに真っ黒な……いや、ドス黒い雷雲がジワジワと迫って来るのが見える。


サワサワと流れてくる生暖かい風も不気味だが、それ以上にオレを落胆させているのは下校途中の中高生達だった。




「じゃあね、バイバーイ!ほら、急ご!ダッシュダッシュ!」




交差点で友達と別れ、猛ダッシュで駈けて行く中高生。

『ヤベーヤベー!』と笑いながらチャリを立ち漕ぎする高校生。


普段なら微笑ましく見えるその光景が、その時のオレにとっては死刑宣告にも等しいプロローグとなった………




ゴロゴロゴロ




「……ん?もしかして、向こうで光った?」




とはいっても、ドス黒い雷雲のカタマリはまだまだ向こうだ。

アイツとかち合う前に国道406号線に乗れれば、ギリギリ濡れずに白馬村まで辿り着けるかもしれない。雨雲レーダーの流れではそんな感じだった。




ピカッ




「うーわ!間違いないわ、今度はハッキリ見えた!つーか、こっちに来るのめちゃくちゃ早いやんか!もうすぐそこまで来てるやん!」




ピカッ……ゴロゴロゴロゴロ…………





ドガーーーーーーン!!!!

ヒイイイイイイーーーーーッ((( ;゚Д゚)))




「ヤッベー!めっちゃ怖いやんかーーっ!しかも近い!近すぎるって!!」




インデペンデンス・デイという映画を見た事がある人なら分かると思うが、そこから巨大な宇宙母船が出てくるんじゃないかと思える程不気味な雷雲だ。

今、ソイツが正に市内中心部を丸ごと飲み込もうとしていた。




パシャッ

ドガーーーーーーン!!!!

ギャアアアアアアーーーーーーーーー!!((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル




決して大袈裟に表現している訳ではない。

寧ろ、もっと激しく表現出来ない事が悔しくてしょうがない。


このブログを読んでくれている方の中に、先月14日の15時頃、長野市内が強烈な雷雨に見舞われた事を覚えている人はいないだろうか?

つか、長野市ってあんな事がちょくちょく起きるのか?マジで命の危険を感じたぞ。





「アカン、アカンぞコレは!」




実際には10km以上離れた場所に落ちているであろう稲光。

が、そのハッキリとした輪郭と、それを見た3秒後くらいに炸裂する爆発音に、オレの心は生まれたての小林千登勢みたいに震えていた。

この恐怖を乗り越えた時、初めて「わが子よ2」の母親役として認められるのだろう。





パキッ

ドグァアアーーーーン!!!!

ヽ(;゚;Д;゚;; )ギャァァァーーーーーー





「もうアカン!もうアカンぞ!どっかコンビニ無いんか!?とにかく合羽着な、またびしょ濡れやんか!あー!ガソリンが無い!ガソリン無くなるぞ!スタンドどこや、スタンドはどこやー!







5分後………







「いやー、凄い雨になりましたねー!レギュラー満タンで?現金でいいっスか?」




国道406号線に乗った時点で、オレはもう五月雨番長の如く濡れていた(←オレにもわからん)。

そんなオレをメキシコの捨て子でも見る様な目で見つめながら、挨拶代わりの決まり文句を爽やかに投げ掛けるスタンドの兄ちゃん。




「あのさあ……コッチって、こんな激しい雷雨がしょっちゅうあんの?」


「いーやー……でも、たまにあるかな~?やっぱり海に近い街とかと違って標高がありますからね!でもこんなに激しいのは滅多に無いっスよ♪」




人の不幸は蜜の味。


ずぶ濡れのオレを見ながら、まるで風呂上がりにフルーツ牛乳を与えられたドリチン次男の如く嬉しそうにしている安月給。


どうでもいいけど、これだけ荒れた天気の中で、どうやったらそんなにふざけた元気が出せるのか?

尻の穴にメントールキャンディでも入れとるのかオマエは?







「まあ夕立でしょうからね、あと10分もしたら止むと思いますよ♪ ハイ、それじゃあ、318円のお返し。アジャジャしたーーーっ!!」










が、








雨は、ここから更に酷くなるのである。
















種子島の日々に戻りたい。心からそう思った。