さて、思いがけず人生で一番高い朝食を済ませたオレは、この旧軽井沢地区と呼ばれるハイ・カーストな部族の住むエリアを散策する事にした。


ハッキリ言おう、オレみたいな庶民からすると舌打ちしか出ないエリアである。














何でまたオレみたいなモンがそんなハイ・ソサエティ・エリアをうろついたかと言うと、それはやっぱりジョンの足跡を辿るという理由が先に立つ。

ジョンは万平ホテルや小野家の別荘に滞在中、旧軽井沢にあるパン屋に足繁く通っていたという情報をネットで知り、そこにはその当時の写真もデカデカと飾ってあるという事で是非見てみたいと思ったのだ。



(え~~っと、フランスベーカリー…フランスベーカリー…………あ、これかー!)



何と言うか、【ちょっと終わった】感のあるお洒落な商店街、といった風な場所にそれはあった。

ま、天下の軽井沢だ。
今はコロナで閑散とはしているが、それでも夏休みに入ればベンツやBMは勿論の事、フェラーリBBやランボルギーニ・ミウラやロータス・ヨーロッパや自家用セスナに乗ったセレブファミリーでごった返すのであろう。

子供が親を呼ぶ時は勿論パパ、ママ。
お美しい奥様はツバの広い帽子を被り、マッチョな旦那は白のポロシャツからゴールドのネックレスを覗かせゴルフ焼け。

夕食にはアヒージョが頻繁に登場し、ボルドーの当たり年ボトルが無造作に並ぶテーブル……





ちっ…………(←妬み)



ちっ…………(←嫉み)



ちっ…………(←僻み)



千葉真一です(←オレにも分からん)






ジョンがしょっちゅう買いに来たというフランスパン。
が、「世界が愛した」ってのは言い過ぎだ。
も少し謙虚になれ。





(あ~ら~、本当に来てたんやなあ……)




それほど広くはない店内だが、逆にそれが地元密着感を醸し出してて好感が持てる。
観光客らしき人は殆んど見てないが、それでも陳列品が多いのは顧客がついてる証拠だ。
そして、店内の正面にデカデカと掲げてあるあの人の写真………





写真下には、1977年の写真と書いてある。
1977年……オレがまだ小学生になったばかりの頃くらいか。




(ふあ~……しかも普通にチャリこいで通ってたんかぁ……なんつー羨ましい人達なんや、当時の住人は)



あまりに生々しい、あまりにプライベートなジョンの姿に、思わずトレーに乗せたパンを落としそうになる。





何気なく置かれた写真立てには、店内で買い物する姿も。
服装、髪型からして同じ日に撮った……というか盗撮した物だな、これ。





バゲット2本買うのに15分も居座っている事に気付き、慌てて精算を終わらせるアホなオレ。

ごめんなさい店員さん、ちょっと半べそかきそうになるくらい浸ってました。




「ありがとうございます。お会計、792円になります。袋は如何しますか?」



万平ホテルでの一時間が2550円。
ここでの15分が792円。
安い!安いな!
え?袋?
下さい下さい!何なら在庫の袋、全部売って下さい!
ダラダラ居座ってしまって申し訳ございません!






「……お好きなんですね」


「あ……ハイ、すんませんでした、ボ~っとして」


「とんでもないです。またお越し下さい、ありがとうございました」












あ、イカン


ちょっとウルッとしてもた


また来よ