『もしもし、スミレちゃん?ニューヨーク、本当に行ける事になったし、明日にでも申し込みしに行こ!』




喜び勇んで電話したスミレちゃんというのは同じ会社のクラブで働く姉ちゃんで、その可愛らしい源氏名とは裏腹に【北の国から】に出てくる正吉のオカンみたいな風貌だった。


何でまたそんなアバズレが好きになってしまったのかは未だに謎だが、現在へと続くオレのB専伝説はここから始まっているに違いない。




『ああ……ごめんジュンちゃん……あたし、行けんとよ…』


『……え?』


『ごめん。本当に行きたかったっちゃけど……行けんとよ』


『何で?最初に誘ったのスミレちゃんやん!』


『ごめん、本当にごめん!………あたし……実は結婚しとうとよ……ごめん…』







………はあ!?









正吉のオカン、みどり。
父さん、お元気ですか?僕は金物屋にでもなりたい気分です…






思いもよらなかった彼女の爆弾発言に思いっきりのけぞるオレ。

ま、今考えてみれば逆に遊ばれ易い年頃だったのだろうが、それにしても何であんなソフトアフロの姉ちゃんを一瞬でも好きになってしまったんだろう。

すみれSeptember loveだったのか?オレは。




が、そんな体育教師系のアッパーカットを喰らっても、オレは全く平気だった。

そもそも本気で好きになるほどのめり込んではいなかったし、ハッキリ言ってしまえば代わりはいくらでもいたのである(←ダメだよ水商売の男は!)。


《遊ばれるくらいなら遊んでやる。フラれるくらいならフッてやる》


これは、それまで散々な目に遭って来た当時の経験からそうなったのだが、若い頃ってガキのクセにこんな事ばっかり言ってるからダメなんだな。本当に下らないガキだったと思う。






(よおおお~~っしゃあ、ほな行ってくっかああああっ!!)






出発当日。


福岡国際空港のロビーに立っていたオレは、どデカいスーツケースをガラガラと引きながら【The・かぼちゃワイン】のエルちゃん並に胸をときめかせていた。


何せ、初めての海外一人旅である。

出だしは躓いたが、初めての海外一人旅である。





左手にはスーツケース、右手には丸めた地球の歩き方である



白のTシャツはジーパンにシャツinし、皮編みベルトで縛り上げているのである



そして素足に皮編み靴である



そして腰には合皮のウエストバッグである



更にそこからカセットウォークマンのイヤフォンが延びているのである



ラジオ機能付なのである



極めつけは空港でサングラスである



人は何故空港でサングラスを掛けるのか?



これはもう人類史上最大の謎である



死海文書より謎が深いと言っていい



ヨッちゃんのThe Good Byeがいつ解散したかくらい謎は深い



50を超えた現在はどうか?



陽射しが強烈な常夏の国では、度入りサングラスを掛ける



近眼キツめ、老眼ヒドめの飛蚊症だ



当時はどうだったか?



出発前日に、度無し千円のアホグラサンをメガネの愛眼で購入



両目ともマサイ族レベルのコンドル眼だった



そして、当時の髪型はコレである………↓

























こういう若さ故の恥とは悲しみにさよならしたいところだが、二十歳そこそこのクソガキが石原真理子の彼氏と全く同じヘアスタイルで、今まさに渡米しようとしているのである。
オレがもし当時の入国審査官ならマッハで別室へと連行するか、必用なら銃殺だって躊躇わないだろう。
今思えば、それくらい恥ずかしい格好だった。







残念ながら、別室へは連行されなかった。

それどころか搭乗口でのオレは既に、旅慣れた人ごっこに勤しんでいた。



搭乗口で旅慣れた人がする行動と言えば、機内に入ってからゴソゴソしなくて済む様に、上着や文庫本や酔い止めの薬、それにお茶等を一纏めにしておく事だろう。


が、その時のオレは何故か売店でキットカットを購入し、それを後ろポケットに半分だけ突っ込むのが旅慣れた人のスタイルだと勘違いしており、離陸時に気付いた時には尻の熱でドロドロになって噴き出していたという悲しすぎる結末が待っていたのである。


今思い出しても不思議だが、何故あの時キットカットだったのだろう?


中1の時に初めてデートらしき事をした時は、


『爽やかな男は片手に青リンゴを持って女を待つものだ』


という意味不明な青春マニュアルを信じていたせいで無惨なフラれ方をしたが、あの頃のキットカットのCMでそんなシーンでもあったのだろうか?
覚えている人がいたら是非コメント頂きたい。








もしかしたらアーモンドチョコのCMだったか………う~ん、思い出せぬ。







福岡国際空港から成田へは、貨物機みたいな小型のプロペラ機で一時間チョイ。


さあ、いよいよ初めての海外一人旅が本格的にスタートした!と心は弾む。


16の終わりに飛び出して、全国各地で畑泥棒を繰り返した家出少年が、今こうして憧れのニューヨークを目指し、記念すべき第一歩を踏み出したのだ。

これを成り上がりと言わずに何と言う?
これをスター街道と言わずに何と言う?


あの17歳を目前にした夜の事は一生忘れない。

尾崎の【坂の下に見えたあの街】を頭の中で熱唱した夜の事は忘れない。

日比谷公園でガチホームレスになった日々も忘れない。


そんな事を思いながら、ウエストバッグの中にあるウォークマンのスイッチを押した。




この日のために、ジョンの遺作である【Double
Fantasy】をスタンバイしておいたつもりだった。





しかしそこには何故か、谷村新司BEST OF BESTのカセットが入っていた。





己の馬鹿さ加減に、ほとほと愛想が尽きた瞬間だった……

























てか3話完結なんか絶対無理だなコレ。

暫く我慢してお付き合い下さい!


佐世保の続き、ちょっと重いからね。
鬱になるの嫌だし。