「ん~~………分からんなあ、やっぱりさっきの交番で聞いてみるか」




佐々に住むさとこ先生の見送りを受け、次は世知原(せちばる)という町へ向けてバイクを走らせるが、小佐々以外は殆んど知らないオレにとっちゃ全く未知の世界である。


で、ド田舎マニアのオレにとって、世知原方面へ向かう田舎道は正にドストライクな風景が点在しており、ちょっと気を取られているうちにナビとは違う道をひた走る事を繰り返している始末。

世知原に着いた頃にはとっくに正午を過ぎており、しかもさとこ先生から頂いた次なる先生の住所が、曖昧過ぎてナビじゃ分からないという事件が勃発。

仕方がないのでさっき通り過ぎた交番へとUターンしたのだが………



「あ~あ、やっぱり無人やったか……」



空っぽの交番内には電話機の横に、『ご用の方は◯◯◯番を押して下さい』とお決まりの文句が書かれていたが、『これを押す住民が一日のうちにどんだけいてんねん!』とツッコミたくなるほど歩いてる人を見掛けない。

耳に入ってくる音は鳥のさえずりだけで、一応だが中心部なのに、ウグイスの鳴き声が一番多く聞こえるという強烈な脱力タウンぶり(←大好きだけどね)。


もう長閑さを通り越して、何だか怖くなって来たんですけど、オレ…………






いつ・どこで・何の目的で撮ったか全く分からないプレミアムフォト。
長旅の疲れはこういうところに表れる。





それにしてもさっきは危なかったな。

永年に渡って幼児保育に携わって来たからなのかどうかは分からないが、御年80歳になるさとこ先生の鋭い洞察力というか、オレと最初に顔を合わせた時から…何というかその…上手く言葉に出来ないが、心配そうな目っていうか、感覚で見透かされてるっていうか…とにかく心の奥まで透視されている様な、そんな感じがしたんだわ。

もしかしたら、ああいうのが母性っていうやつなんかな?

おかげで更に目が腫れるとこやったわ、終いにゃ失明するぞマジで。






世知原では写真撮るのを忘れてたんで、京子ちゃんのお姉ちゃんから貰った蓮花畑の写真でお楽しみ下さいませ。




一応は交番の電話で問い合わせてみたが、警官が戻るのは小一時間くらい掛かるという事で断念。
というか、知り合いの住所を尋ねるならそこら辺の住人に聞いた方が早いですよー、との返事。
なあ、やる気あるんかアンタ達?



「あ~疲れた……ちょっとコーヒーでも飲んで一服するか……」



ウロウロしているうちに見付けた『国鉄世知原線世知原駅跡』とか言う鉄ヲタしか興味の無さそうな公園で、キャンプ用ガスバーナーに火を点けお湯を沸かす。

そろそろ手持ちのコーヒーも無くなってきたな…………てか、あーもー面倒臭ぇなあ、もう缶コーヒーの方が楽でエエやんか!何でこんな荷物になるモン積んできたんやろ?
三日間くらいのキャンプツーリングならともかく、二週間も旅するなら極力荷物減らした方が絶対楽やんか。
大体、たかが100円とか200円ケチる様な旅する年齢かっつーのっ!いい加減に成人せいっ、オレっ(←言うてる間に還暦)。





小佐々から引っ越した先もこんな感じの田舎だった。やっぱり住むのは田舎がいいけど、問題は仕事だな。




(う~~ん、さっぱり分からへんな。こうなったら、そこら辺の家を片っ端から聞いて回るか!…………と、その前にトイレ行きてーな。確かコンビニが一軒だけあったはず……)



町の中心から少しだけ外れた場所にあるコンビニでトイレを借りたが、オレ以外にはウグイスしかいない様な町でトイレだけ借りるというのも何だか大人気ない(←というより客がいないから店を出にくい)ので、運転しながらでもつまめる様にとサンドイッチを1つ購入。
そういや、世知原に来て初めて遭遇した人類がコンビニのおばちゃんか。これを逃すと夕方までゴーストタウンに取り残されそうな気がするし、ダメ元で先生の事を知ってるかどうか話しかけてみた。



「すんません、ちょっとお伺いしますけど」

「ハイハイ?」

「この辺に住んでる方で、◯◯さんっていうお宅をご存知ないですか?」

「ここから見えますよ」







「……え?」





「あそこに右へ上がって行く細か道が見えるでしょ?」

「はい」

「道の上に二軒並んで家のあるでしょ?」

「はい」

「手前の家が◯◯さんの家ですよ」

「わかりました」








また無駄な時間過ごしてたわ。
てかプライバシー無いんかこの町は。







大阪だったら通報されてもおかしくないシチュエーションだが、この町のセキュリティに対する意識はどうなっているのだろう?

いや待てよ?
保育所の隣に住んでた婆ちゃんもそうだが、アレはアレで相手が怪しいかどうか見極めてから教えてくれ………いやそんな訳ねーな。あの時はオレがこっちに住んでたって分かったから教えてくれただけだし、そうじゃなかったらあんなに話も続いてねーわ。
やっぱり単純に無用心なだけなのか?この気仙沼ちゃんみたいな顔したおばちゃんは。




「今ちょうど帰ってきとらすよ」

「………はい?」

「午前中は買い物行っとらしたけど、今さっき戻って来よらしたですよ」

「わかりました」













先生、監視されてますよ! 欽ドンに出てた人に見張られてますよ!
てか怖ぇな田舎の監視社会って!










本文とは全く関係ないけど、とあるアスリートからこんな嬉しい知らせが届いた。
現状を考えると複雑な心境の開催になるけど、選手に批判の声が上がるのは絶対に違うとオレは思う。
それがたとえ『友達だから』とか『仲良しだから』とか『依怙贔屓』なんて思われても全然構わない。だって、この娘に限らずそいつらの事が大好きだから。
永年の酷使による身体の故障でどれだけ辛かったかも知ってるし、長期に渡るリハビリでどれだけ不安だったかも知ってる。
プライベートでもずっと我慢して来たんだから、大っぴらに恋愛くらいしたって何が悪い。

みんな、どこの誰だって、『幸せになるために生まれて来た人』であるという事を忘れちゃいけないし、それが今回の旅では非常に悔しかった事でもある。

会場には行けないけど、またテレビの前にかじりついて全力で応援させてもらうよ!
とりあえず5大会連続出場、心からおめでとう!
雑音や結果なんか1mmも気にしないで、最後の五輪を「これでもかっ!」って言うくらい楽しんでね!