(やっべ……まだ酔ってるんやろか、オレ)
朝風呂に入ってスッキリしたと思っていたが、鹿児島と熊本の県境辺りまで来た途端、急にクラクラし始めるオレ。
めちゃめちゃ二日酔いの朝って、逆に『あら？大したことないな』とか感じる事があったりするが、少し時間が経ってからぶり返すなんて事も良くある。
多分オレ、朝はまだ酔ってたんとちゃうやろか？
熊本県水俣市に突入。旅に出て早10日目。
(いかん、ちょっと休憩して行こ……マジで吐きそうやわ)
今になって思い出してみれば、この時の体調は酒を呑んでいなかったとしても最悪だったと思う。
この10日間、特にこの３日間は強烈な事がありすぎた。
それ以前のミジンコみたいな疲れが知らない間に積み重なり、そこに種子島を発った途端に襲い掛かって来た達成感とかが、ここに来て一気に疲れとして出てきてしまったのだろう。
１日10時間以上にも及ぶ運転や、そこで遭遇する数々の交通トラブル。
ここにそんな細かい出来事を全て書くと年越しするのがオチだから割愛するが、『チッ！』と舌打ちをするレベルのトラブルなんて、【日常】どころか【分常】茶飯事で起きている。
そこは、オレみたいな小型バイクで旅してる人じゃなくても同じだろうし、逆にダンプトラックみたいな大型車を運転してる人達も同じだろう。
が、ピストバイク(ロードバイク？)という名のチャリに、疑似競輪選手みたいな格好でツーリングしてる一部のヤツらだけには、この際だからハッキリ言わせてくれ。
信号無視するなら公道走るな。
いやスマン。
車も車ならバイクもバイク。
更に何年か前からマナーの悪すぎるチャリダーが赤潮の様に大発生してて、もしソイツらが何らかの原因で事故っても、おそらく責任を負うのはオレ達みたいに【エンジンを載せた乗り物】を運転してる側なのだ。
縦横無尽に信号待ちしてる車の間をすり抜けて行くのもどうかと思うが、公道走るなら信号くらいは守ってくれ。
それが嫌なら、歩行者と事故って金銭面で後悔しろ。
目指すは熊本港なのだが、余りの体調不良に暫しギブアップ。
(あ～、ここから島原方面に行くフェリー無いかなあ………)
国道沿いに見えた、水俣港フェリー乗り場の看板。
それを見て、休憩がてら一気に長崎入りしようと目論んだオレだったが、そこから出ているのは獅子島という離島へ向かう水上タクシーだけだった。
まあ仕方がない、ちょっと休憩して行こう。
この日はポカポカ陽気。青い顔をしてたのはオレだけ。
「ここで待ってても、バイクは積めませんよ」
ベンチで横になっているオレに、そう声を掛けてくる窓口の爺さん。
「あぁ、はい。ちょっと休憩してるだけですから、すんません」
「具合でも悪いんかね？」
「いや、少し疲れてるだけですから、大丈夫です」
やれやれと言った顔で、外にタバコを吸いに行く爺さん。
が、そこに停めてあるオレのバイクのナンバープレートを見ると、吸おうとしたタバコを口から離してオレの方を向いた。
「アンタ、大阪からバイクで？」
その訝しげな表情を見れば、爺さんがオレに何を言いたいのかくらいは容易に想像が付く。
「はい。でも、大阪を出て10日過ぎましたけどね。大丈夫ですよ、二日酔いで気持ち悪いだけなんで」
「………まあ…あの～、ここはねぇ、ちょっと…休憩する所ではないんでねぇ……」
(あああああああ～～～っ、もう！鬱陶しいっ！鬱陶しいけど、頼むからあと30分だけ横にならせといて！何なら休憩料払うからっ。30分幾ら？200円？300円？5ドルかっ！？)
「ハイハイ、すんません。もう行きますんで」
ま、爺さんの気持ちも良く解るけどね。
こんな田舎の誰もいない港で、しかも具合悪そうに倒れ込んでる男のバイクが大阪ナンバーだったらそりゃビビるよな。
迷惑掛けたね、爺ちゃん。
やっとの思いで辿り着いた熊本港フェリーターミナル。遠かった………
熊本→島原
大人1名＋125cc以下1台＝ 1630円
九商フェリーという会社の、レインボーかもめ(新造船)に小一時間ほど揺られるだけの船旅。
それが上記の値段で安いか高いかは別としても、やっと少しだけ身体を休められる事が何より嬉しかった。
ここで出来るだけ体調を戻しておかないと、今日予約してある平戸までは、ざっと調べただけでもまだかなりの距離がある。
今やゆるキャラの帝王となったくまモン。
オッサンにはその良さがさっぱり分からん。
新造船だけあって、船内はかなり快適。
このソファーが寝心地良かった。
乗船率は4割といったところか。
キャビンの最前列に荷物を置き、フカフカのソファーに倒れ込んだオレは、モノの３分もしないうちにぐっすり眠ってしまった(←と言っても50分くらい)。
が、そのおかげでかなり体調良くなってスッキリ。
うん、やっぱり睡眠大事だな。
スッキリしたら腹へったわ。
デイリーヤマザキのおにぎり買っといて良かった。
そしていよいよ長崎へ。島原に来るのはこれが初めて。
遠い想い出の地、長崎。
ここで、オレは『ある人』と大変な再会をする事になるなんて、この時はまだ思いもしなかった。