「帰ったって………どこに?」
ここはタイだ。ミナミの立呑屋から終電で帰るのとは訳が違う。
て事は、『2年ぶりに帰ってきたカオサンロード♪』とか、バカみたいなタイトルでブログに書いてるアバズレ女子大生なのか、アイツは。
「日本です。1人で東京に帰るって言って、朝4時くらいに出ていきました。信じられます?」
「ちょ、ちょっと待って。朝4時に出たところで、バンコク行きの列車なんか…………いや、あるわ。確か4時半のバンコク行きが!」
「多分、それに乗ったんだと思います。でも、帰りの飛行機は明後日ですよ?勝手にイジケて勝手に怒って。本当にウンザリしました、別れて良かったです!」
エエエーッ!?
「別れたって……昨日の夜、そこまで酷いケンカしたって事??」
「ケンカというか、もう全部めちゃくちゃなんですよ、あの人のやってる事って。昨日、ホテルを勧めてくれたじゃないですか?あの時、本当にそうして欲しかったし、お部屋で休ませてもらってる時も言ったんですよ、エアコンあるホテルに泊まりたいって」
「そうやったんか………」
コトの事情が分かってないオレに、A君とB君が彼女を交えて説明し始めた。
要約すると、こうだ。
東京にある居酒屋で働いていた彼女は、そこに短期のバイトとして入ってきたタケシと知り合う。
最初はただのバイト仲間だったが、バイト終わりに飲みに行く程度の友達になる→
飲みに行くと必ず出るのがカンボジアでのボランティア話で、だんだんと彼女もカンボジアに興味を持ち始める→
そのうち二人は付き合う様になり、彼女もカンボジア行きを決心する→
一応だが、近い将来は一緒になるという話はしている→
ボランティアもいいけど、結婚する為に貯金をしようと話をするが、今はボランティア先の子供達の為に一生懸命だから3年待ってと言われる→イマココ
「カンボジアの子供がどうとか言う前に、私がピンチの時に何も気にしないとかあります?私、初めて彼と旅して思ったのは、私の事をお金としか見てないんじゃないかって」
「ど…どういう意味?」
彼女の話によると、タケシは実家住まいだが彼女の部屋で毎日寝泊まりしていたという。
最初の3ヶ月間は多少のお金を入れていたが、その後は色んな理由を付けて払わなくなった。
で、そういった細かい事もつもり積もっていた所に昨日のホテル泊拒否事件があり、オレが寝ていた夜9時頃から、この場所で彼女の鬱憤が大爆発したらしいのだが、そんな彼女に追い討ちを掛ける様な、ある重大な事実が発覚した。
「あの人、アイ◯ルとかアコ◯に借金があったんです。そのくせ、1人でカンボジアに行ってる時とかにはハガキをくれるんですよ。『こっちでは毎日忙しく働いてる』とか。バカですよね?日本では就職もしないで借金作って、海外の子供が可哀想とか……じゃあ私は一体何なのってなるじゃないですか?家賃も食費も払わないくせに寝泊まりして、これからの為の貯金もしないで、それで3年待ってくれって、それって結婚詐欺だと思うんですよ」
驚いた………というか、今時そんな馬鹿げた奴が実在している事に唖然とした。
まさか、金を借りて施設に寄付している訳じゃあるまいが、そこまでしてやりたいもんなのか、ボランティアって。
「こっちで会うボランティアの人って、マジで変な人多いですよね~。こないだのオッサンとか」
横からA君がそう言った『こないだのオッサン』とは、一週間ほど前に二日間泊まって行った日本人である。
その日は、宿のオーナーであるタイ人の旦那がスキヤキを食べたいと言い出し、それなら皆で金を出し合って皆で食べようか、となった。
そんな所に『部屋は空いてますか?』と顔を出したのがそのオッサンで、年に一度はロッブリーという街にある孤児院へボランティアに行っているという。
んで、皆が久しぶりの日本食に歓喜してるその横でビールを呑みながら、『いやー、君たちは恵まれてるなー』なんて事を言ってくるのである。
最初のうちは聞いてないフリをしていたが、ビールの空き瓶が増える毎に増して行く、ウザいボランティアアピール。
結局これなんだよな、北海道の某ライダーハウスが、50歳以上の利用を断ったりする理由って。
その後、残された彼女は二日間連泊して日本へ帰って行った。
タケシがどうなったかは知らないし知りたくもないが、彼女にとって別れた事が結果として良かったならそれでいい。
元々は、【若い頃にゲストハウスで出会ったオレの嫌いなタイプ】って事で始めた話だが、いつまでも話をズルズル長引かせてもしゃあないので、ここらで完結しておこう。
ま、結局オレが言いたいのはこういう事だ……
自分探しの旅とボランティアアピールするヤツとかはいっぺん医者行け。