(ううう…………さっ、寒いいいいいいい~~~)




2月後半の鹿児島県。


ま、冬だから当然と言えば当然なのだが、ここは東北じゃなくて鹿児島県である。





いよいよ鹿児島県に突入。大阪を出て今日で4日目。




(志布志か。ここから鹿屋まで突っ切って、そっから北上したら桜島やな。よし、時間的には全然OK!張り切って行………アカン!寒い!寒すぎるんじゃボケエェエエーーーーッ!!)



いやー、マジで鹿児島がこんだけ寒くなるとは思わなかった。
グリップカバーを付けていても指先は麻痺してきている。
こりゃいかん。一旦止まって、近所に銭湯でもあったら長湯して行こう。






地獄に仏、寒波に温泉。もう少しで女性化するくらい縮み上がっていた。



『道の駅・くにの松原』という施設内にある、おおさき温泉松韻乃湯。
ま、ちょっとしたスーパー銭湯チックな感じだが、入浴料は310円と激安。
もちろんタオルやシャンプーなんかは置いてないが、それでも大阪の銭湯に比べると140円も安い。
うん、素晴らしいね鹿児島県。




田舎の道の駅あるあるだが、いろんな使われ方してるのね。ついでに素泊まり1000円の宿とかしてほしい。



(ふわあああああ~~~っ……最高や、生き返った)



湯槽に浸かると、少しぬるめではあるが柔らか系の湯が身に染みる。このまま1時間くらいはのんびりして行こう。



(ぬおっ!……もおおおっ、クソジジイがっ)



オレが頭を乗っけて寝風呂状態になっているすぐ横から、洗面器で湯を掬う地元のジジイ。
他にナンボでも空いてるスペースがあるのに、何でわざわざ他人の顔にしぶきをかけながら掛り湯するのか?
別府だったら殴り合いのケンカになっとるぞ。



「そっちで掛り湯してーや、爺ちゃん」



人の顔に飛沫を飛ばしながら、それを三回ほど繰り返すジジイに我慢がならないオレ。
別にキレている訳でもないが、マナーとして言うべき事は普通に言う。



「あ?」

「あ?じゃなくて、そっちはナンボでも空いてるやん。わざわざ人の顔にお湯かかるとこで掛り湯せんでもええやろ」

「あ……ああ、ごめんなあ兄ちゃん」



そう言って湯槽の縁に座るジジイ。
が、これは別府だけのマナーなのかもしれんが、湯槽の縁に尻を置くという行為はご法度なのが別府温泉。
ガキの頃からそれが当たり前だったオレからすれば、見ていてとにかくモヤモヤする。



「兄ちゃん、こっちやないなあ」

「ん?」

「どこの人?」

「ああ、地元ですよ」

「言葉がなあ、大阪の人かと思った」



やっぱりこの時期、田舎の人はよそから来た人間に敏感だ。
受付でも検温は勿論だが、常連客以外は受付用紙に名前・住所・連絡先を書かされた。
そこには正直に記入をしといたが、やっかいなのはこういった客同士との会話である。



「大阪に住んでたんやけどね、ちょっと前に戻って来たばっかり」

「ああそうかあ……やっぱりアレか、コロナでダメになったんか?」

「何が?」

「コロナで会社がダメになったんか?大阪は人もいっぱい死んで大変だったみたいやなあ…」

「そうそう。会社も潰れたし、住んでた近所でも毎日死人が出て大変でしたわ」



はあ~~と頷く爺さんから抜け出し、洗い場の方へ向かうオレ。
無駄に否定するよりは話を合わせてとっとと退散。田舎の年寄りはとにかく暇だ。だから昼間っから銭湯が寄り合いの場になっていて、他人の不幸は蜜の味。
そんな所で『いや』だの『でも』だのと話を拡げるつもりはない。そんなもんは全く無駄だ。
それよりも、コロナにめっちゃ怯えてる割にはジジイ同士の話し声が大きい事大きい事。
言っとくが、それも別府だったら地元のジジイから叱り飛ばされるとこだぞ、大人しくせいっ。





「よしっ、暑いくらい温まったしそろそろ行くか!」


休憩所でトドみたいに並んで寝てる爺さん婆さんを見ながら、汗が引いたのを確認して身支度をする。

何かさ、『如何にも』な田舎の一面に当たるのは想定範囲内やけど、こういうのがあるから縁も所縁も無い田舎に移住する人達はすぐに挫折するんやろうな。



移住って、いい事ばかりじゃないっつーか、嫌な事の連続だったりもする。
そんな光景を垣間見た風呂タイムだった。




オレ、田舎モンだし田舎大好きだけど、何かあった時の『田舎モン』ってマジで嫌いだわ。