翌朝5時半。


がっつり二日酔いの頭に、昨夜の記憶がジワジワと甦って来る。



(ううぅ~~っ……気持ち悪ぃ………めっちゃくちゃ呑んだなぁ…つーか呑まされたか……忘れ物とかしてないやろな?……財布は……あった……あれ?)



ベロンベロンになる前に、普段から意識してやっている事。

それは財布をジッパー付きのポケットに入れるというものなのだが、しっかり入っている事を確認してホッとする。

で、幾ら遣ったかも記憶に無いので一応中身を確認するが、残っている金額が昨日と全く変わっていない。



(………あ、そっか、あの爺さんマジでオレの分まで払ってくれたんや。何か悪ぃ事したなぁ………でもま、勝手にオレの枝豆と唐揚げを半泣きしながら横取りしてたし、当然っちゃあ当然か。そやけど、あの後誘われたスナックとか断って良かったわ。あれ以上呑んでたら宿まで辿り着いてねぇぞ……)



深夜何時に戻ったかも記憶に無いが、重たい頭と吐き気を必死で無視しながら荷物を纏める。

そういやこの宿、人と会ったのは結局チェックインの時だけだったな。

うん、やっぱりオレって青臭い年齢層と戯れるの苦手だな。加齢臭漂うスキンヘッド爺とかの方が気楽でいいわ。

またどこかで会ったら、次はオレにご馳走させて下さい。年月によっては香典になるかもしれんけど。



午前6時、すやすや眠っている暗記の天才少年を起こさない様にそっと………なんて気を遣う訳もなく、ドスドスと音を立てながら玄関へ向かうオレ。

オマエもこんなとこでいつまでもリモートライフしてないで、早く帰って部屋の掃除でもしろよ。

じゃねーと、ゴミ屋敷の主の次は騒音オバサンみたいな人生が待っとるぞ、多分。





佐伯から宮崎に向かう途中の国道388号線。あまりの寒さにギブアップしてコーヒータイム。





さて、今日はこれから宮崎県日南市へ向かうのだが、佐伯という街は宮崎との県境に位置する為、それこそすぐに延岡市に突入する。


で、『意外と宮崎近かったな、のんびり観光でもしていくか』などと軽々しく考えがちなのだが、宮崎という県はとにかく縦にめちゃくちゃ長いから騙される(←宮崎のせいではない)。

走っても走っても宮崎、来る日も来る日も宮崎てな感じで、最初は圧倒的な絶景ポイントの連続に感動するが、4ヶ所目のポイントを通過する辺りから絶景飽きしてくるのである。

ま、日本って絶景ポイント多いから仕方がないわな。





しまいにゃ絶景でも何でもない場所でもパチリ。当時のオレに五時間くらい説教してやりたい。



まさに絶景と呼ぶにふさわしい宮崎の海岸線。醤油が甘さ控えめだったら移住地候補に入るのだが…



(あー痛てててててっ!もうアカン、ちょっと休憩していこ)


三時間近くノンストップで走っただろうか。
連日の移動でケツは既に限界を迎えているが、ケツよりも腰に痛みを抱える様になると老いを自覚する。
ちょうど目の前は小さな漁港。
あそこでしっかり休憩して行こう。




「お兄ちゃん、どっから来た?」




どう見ても特産など無さそうな過疎漁港。
そんな場所でも一応だが港の市場はあるようで、買う気も無いのにフラフラ眺め歩いているオレの背中越しに声を掛けてくる、天寿全う半年前っぽい老婆。



「あ、こんにちは。泉佐野から来ました」



途端に口から湧いて出る嘘。
こんな田舎の老婆に向かって、「大阪から来た」等と言うのも気が引けるしな。



「イズミ……どこ?」

「泉佐野です。島根県の沖合い50kmに浮かぶ孤島ですよ。徳川の埋蔵金が二年前に発見された所です」

「島根……へぇー、そんな遠くから単車で。ご苦労さんやったなあ~」



すまんな婆ちゃん。
が、田舎の爺さん婆さんってマスクもしてない人が多いし、世間話を拡げるのもちょっとな。
今のオレに出来るせめてもの心遣いだ、許せ。



「お邪魔しました、孫が産まれそうなんで先を急ぎます」

「あー、良かったらこれ持って行きなさい」



バイクの方に向かおうとしたオレに、そう言って婆さんが差し出したモノ。
それは、ネットに入った大きめのニナだった。



「おおっ!ニナじゃないですか!懐かしいなー、小さい頃しょっちゅう食べてましたよ!てか、随分立派なサイズですけど構わないんですか?」

「いいからいいから。でも、おたくの島でもようけ採れるでしょうが?」

「あ、い…いや、うちの島は30年程昔にインドのタンカーが座礁して…それからはヒトデしか採れなくなったらしいんですよ」

「あらまー、そりゃ大変じゃったねぇ……」




これがその婆さんから貰ったニナ。全身の毛穴から罪悪感が流れ出た。




余りにも適当な嘘に罪悪感が押し寄せてきたオレは、足早にその場を後にして別の海岸へ。
何となく別の意味でオレオレ詐欺を働いた気がせんでもないが、せっかく頂いた海の幸だ。新鮮なうちに有り難くご馳走になろう。




名も知らぬ砂浜で、孤独に貝を茹でる出任せ男。物珍しそうに近寄ってきた子供がいたが全力で無視した。




「ぬおっ!うっめえええ~~~~~っ!!」



これこれ、これだわ!オレがまだ3歳とかその辺の頃、近所の海からバケツ一杯ほど採っては食ってた懐かしの味。
たまにヤドカリとかが入ってるのが楽しくてね。
当時は爪楊枝の代わりにお袋のまち針でほじくって食べてたけど、そのまち針が時々唇に刺さってはギャン泣きしたもんだ(←ただのアホ)。




尻の部分を切らずに出すのが意外と難しいのと、爪楊枝じゃすぐほじくれなくなるのが難点。が、べらぼうに旨い。




旨いのは旨いが、ニナだけでは腹は膨れないのが哀しいところ。
ここでもまたカップ麺を啜ってごまかすのだが、たまには普通の旅行者並にご当地名物でも堪能したくなってくる。

が、あいにくオレは宮崎名物が苦手な人であり、皆が食べたがるチキン南蛮や、地鶏を炭火で炙って真っ黒けにしたヤツなんかは論外。
かといって、他に名物ってあったかなーと考えても出てこないのが宮崎名物なのだ(←オマエだけだ)。

ま、地元の人は普段からそんなもんばっかり食ってる訳じゃないんだから別にいいよな?


てな訳で、久しぶりに吉牛でも食うか。


あ~あ、何だか知らないけどグァバ飲みたいぞ、グァバ。