「それでは料金の方が3600円になります


「………え?」




若い子達が経営してるゲストハウスで、オッサンが千円ちょいで利用するのも恥ずかしい話だ。

面倒臭いから先に三千円払って、とっとと飲みにでも行っちゃおうと思ったが、何なんだその追加600円は?

それと、ここでも『方が』と『なります』か。

年寄りの小言もウザいだろうが、ガキのうちに日本語は直しといた方がいいぞ。

逆にオッサンから、『近くにナウいディスコとかありますか?土曜の夜だしフィーバーしたいので』って言われても困るだろ?




「あの~、ココって投げ銭システムじゃなかったっけ?」


「はい、あの~、ホームページから直接予約を頂けたらそうなんですけど、Booking.comの方からだと手数料が別にかかる様になってるんです」


(マジかー、シクったなぁ……。ま、別にそんな端金どうでもいいけど、ドミで3600円払うくらいなら5000円くらいのビジホ泊まった方が良かったよなぁ……。でも今から宿探すのも面倒くせーし…)


「どうされますか?」


「あ、すみません。大丈夫です、じゃあハイ、3600円」


「すみません、ありがとうございます。それでは施設をご案内します」




ゲストハウスってのは、若い子達からすりゃ旅仲間との出会いを求めて来るもんなんだろうが、安く寝るだけの目的で利用する人も沢山いるはずなんだよな?オレみたいに。

てか、日本には日本の物価があるから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど、正直ドミで3600円って割高感。

こっちがよく確認してなかったのが悪いんだけど、そこら辺ホームページにデカデカと載せといて欲しかったな。




「追加で朝食も付けられますが?」


「あ、いや結構です」




目の前のキッチンで野菜切ってるウォンバットを見ながら、反射的にお断りするオレ。

ま、その不慣れな包丁使いを見ただけで分かるけど、如何にも素人の女子が作った朝食を、二日酔いの朝に金払ってまで食う気はしない(←自棄酒決定)。


ごめんな。でも一応オレ、調理師なもんで。






シャワーを浴びたらソッコーで外へ。うん、オッサンはやっぱりこんな料理に限る。




宿の周りの一帯は「佐伯・うまいもん通り」とかいう繁華街になっていて、一応だかここら辺が夜の中心になっているらしい(←違ってたらすまん)。
ま、繁華街と言っても猫一匹歩いておらず、遭遇したのは今のところウォンバットだけなのだが、ネットの情報によると、こんな場所でも人気店は予約必須らしい。
ま、そりゃそうだろうな。店自体少ないんだから。

旨いもんは確かに食いたいが、予約必須の繁盛店に1人で入るってのも煩わしいし、ここはやっぱり割烹着着た若めのオバハンがカウンター商売してる様な小料理屋がいいな。
何せ今まで自作のハンバーグと焼そばばっかり食って来てたもんで、こうやって自分の好きなもんを外で食うのが楽しみで仕方なかった。
今夜は何かヌタとか食いてーな、あとナマコ酢とか(←郷土料理興味無し)。




「すんません、1人なんですがー」

「いらっしゃいませ、どうぞ~」



その「佐伯・うまいもん通り」エリアから少し外れた(←何故外れる)場所にある、一軒の居酒屋。
如何にもイチゲンサンは来なさそうな田舎の店ではあるが、逆に名物料理推しの有名店よりは入りやすいし、オレの場合、大分の名物料理など必要無い。




なんたって私、大分県出身ですから( ̄^ ̄)



鶏天、だんご汁、やせうま、こねり、りゅうきゅう、etc…

これ全部、今でも自分で作れるもんで、わざわざ外で金払ってっていう。
ま、そんなに難しい料理も無いしね。
りゅうきゅうなんて、要するに『ヅケ』だし(←旨いよ)。



「飲み物は?」


「生下さい……あ、この《ほろ酔いセット》でお願いします」


「そのメニューから、お好きな料理を3つ選らんで下さいねー」




うん。

やっぱりええなあ、こういう居酒屋が。


女将さんは割烹着じゃなくて部屋着みたいな格好だけど、まあ一応オレより若くて愛想も良いし。


奥でガチャガチャやってる婆さんは、女将さんの母親かな?


じゃあ料理はばあちゃんの味付けか、それはそれで嬉しい。


店にテレビ置いてある時点でポイント高いな。

沈黙のゲストハウスに疲れた身には、ローカルニュースが沁みる。




「はい、どうぞ~」




ンッ、ンッ、ンッ、ンッ………ブハーーーッ!!

んんんんん~っ、何か色んなもんから解放されたビール激ウマ!

ついでに、婆さん風味の酢の物サイコー!

何なら店に仏壇あって線香の煙漂ってても許せるぞ、今のオレ。




「あの~……この番組って、どの局ですか?」




良い感じのBGMになっている、テレビのローカルニュース。

その編成というか、女子アナの野暮ったい服のセンスも、今のオレにはめちゃくちゃ心地好く、思わず女将さんに話しかけてしまう。




「あら、違うチャンネルが良かった?別に何チャンでもいいけん、変えましょうか?」




あー、大分弁やー懐かしー!

かなり久しぶりに生の大分弁聞いたわ。




「あ、いやいや、そうじゃなくて。ただ、大分の放送が懐かしかっただけです」


「あ、こっちの人かと思ったら違うんかぇ?どっから来よったん?」




いかん、もうゾクゾクするくらい方言が突き刺さるわ。

このままやと夢精しそうでヤベーな。




「ん~、時期が時期だけに言いにくいところなんですけどね」


「え?もしかして東京?」


「いえ、大阪です」


「ナンカェ~、大阪やったら大丈夫っちゃ」




大阪だったら大丈夫の意味がフワちゃんの需要と同じくらい理解出来んが、まあそっちが大丈夫ならそういう事にしておこう。




「昔、こっちに住んじょったん?」


「というか、大分出身です」


「あー、それやったら全然大丈夫やわ。今は民放も3局に増えたん知っちょん?」


「いや、知らなかったです。OBSとTOSと、後はNHKだけの時代ですね」


「あらー、そげぇ昔に大分出ちょったら相当懐かしいんやろうなー!フフフ、八鹿の歌もまだ流れちょんで」




八鹿酒造の歌……死ぬほど懐かしい。

つか、まだ普通に歌えるわ、オレ(←YouTubeにアップされてるから観てね)。

大分県民でこの歌知らんヤツは1人もいいひんやろしなー。







ガラガラガラガラッ!




「うぉ~ぃ、来たでぇ~~っ!」




元大分県民ながら、初めて来た佐伯の町。

常連しか来ない田舎の居酒屋あるあるが始まった。






あー、明日絶対二日酔いやろうな~……