佐賀関に到着したオレは、ゆっくり町散策する暇無く本日の宿泊地、佐伯へ。


何だこれ移動ばっかりで全然観光無しかよー!と思う人もいるだろうが(普通そう思う)、そこんとこの理由はもう少し後で説明する。

オレにとっちゃ移動も観光だ、仏閣とか滝とか大して興味も無いし。


予約してある佐伯のゲストハウス。結果から言おう、失敗した。




予約してあるゲストハウスに到着したのは午後5時過ぎ。
Booking.comのメッセージで前以て説明は受けてはいたが、この時間帯はオーナーが犬の散歩に出かけて不在にしている事が多いらしい。

普段のオレなら、そんな馬鹿げた宿はスルーして他をあたるのだが、こういう田舎にあるゲストハウスって、意外と安いとこ少ないのな。
んで、宿のホームページをチェックしてみると、宿の料金は投げ銭方式で決めているとの事。
要約すると、こういう事だ。



【チェックイン時に千円払い、最終的には宿泊者が金額を決める。それを面倒に感じるなら、最初に三千円支払って下さい】



ほお、なるほど。
ま、よっぽど嫌な思いでもしない限り千円だけで帰る奴はいないだろうが、受け取り様によっては回収者側の圧を感じるシステムだな、コレ。








「投げ銭をするお金がない分お手伝いしたい」というヤツがいるのか。オレの子じゃなくて良かった。




恐らく完全に終わっているであろう感満載の商店街でナビは完了し、建物の脇にある狭い階段を上ると、それらしきドアがあり開けてみるが誰もいない。


「こんにちはー」


返事は無い。
メッセージの通り、犬の散歩だろうか。


「こんにちはー、すみませーん」


やっぱり返事は無い。
どう見てもコロナ禍で閉業寸前の空気が漂っている感がプンプンするのだが、それでも客より犬が優先なのか。
それならそれで、千円だけで済ませる理由が出来て助かるのだが。


「すんませーん、こんにちはー!」

「……は~い」


あ、おったんかい。


奥の方からいそいそと出てくる若い兄ちゃん。
ネットの情報だとオーナーは姉ちゃんだったから、バイトスタッフとかだろうか。


「はい」

「え~っと……予約してる者なんですが」

「あ、宿泊の?すいません、今スタッフの人いないんですよ。もう帰って来ると思いますけど」

「あ、もしかして、お客さんですか?」

「え~、ハイ。そうです」



出たよ、途上国のゲストハウスにありがちな《緩さを売りにした客任せスタイル》。

そして、そこで漫画読んだりパソコンいじったりして1日を終えるのが日課で、宿のシステムにも慣れた辺りから仕事の手伝いなんかして、新しく来たパッカーに先輩面する無職のヌシといった構図か。



「ほな帰って来るまで外で待ちますわ」



スタッフでもない暗記の天才少年みたいな顔した兄ちゃんと、静寂の中で二人っきりで待つのはごめんだ。
想像しただけで鳥肌通り越して羽毛生えてきそうだし、一旦表に出て町散策でもしよう。





そろそろ暗くなってきた割には、猫一匹歩いてない佐伯の商店街。ピンボケの原因はそんなとこにあるのだろう。




町散策と言ってもバイクなので5分で終了。
他にする事も無く宿の前でボケ~っとしていると、人生に疲れたウォンバットみたいな姉ちゃんが買い物袋を下げて宿へと入って行く。


「あの、すんません、宿の方ですか?」

「あー、ハイ。というか、オーナーの家族なんですけど……もしかして宿泊される方ですか?」


宿泊以外に何の目的があって来るヤツがいるのかにも全く興味は無いが、そうだと言うと、まだ帰ってきてないんですかと逆に驚かれる。
いや知らんがな、アンタら家族の謎ルーティングとか。


「とりあえず、バイクを停められる場所ってありますか?」

「はい、え~っと……普段はそこに停めてもらってもアレなんですけど、今は長期滞在してる方がアレしてるんで……すぐそこを曲がった所に駐車場があるんで、無料で停めてもらって構わないんで」


アレばっかりでドレがアレなのかも分からんが、とにかく一番停めやすい場所はさっきの暗記の天才少年が占領している様だ。
補助輪無しではママチャリにも乗れなさそうな顔してたけど、人は見掛けに寄らんもんだな。


「ここですねー。ここの◯番から◯番までなら、どこに停めてもらっても大丈夫ですので、お好きな場所に停めて下さい」


誰がどう見ても、20年前くらいに放棄された様なボロい駐車場。
そこには崩落寸前のブロック塀に消えかけた文字で番号が書いてあるのだが、もう暗くなったというのに駐車している車は他に1台も無い。

で、下らない飲食店のスタッフとかが良く言うが、初めて来た客に対して何を基準に「お好きな場所」と言えるのか?
テレビに近い席とかの選択肢があるならまだ理解出来るが、昔ながらの不法投棄ポイントみたいなこの場所で、一体オレにどこを好きになれと言うのか?

すまんが一言だけ言わせてくれ、本当に大丈夫なんかココ。





再度撮ったがまたもやピンボケ。やっぱり何かあるな、ココには。




ウォンバットに案内されながら宿に入る。
さっきの受け付けの奥は雑然としたオープンキッチンと共用スペースになっており、そこにはオレと目を合わさず一心不乱になってパソコンを叩く暗記の天才少年がいた。

ウォンバットがキッチンで何やらカチャカチャやり始める他にはパソコンの音。
灯りは薄暗く会話も無し………ってオイ何の罰ゲームだコレ?てか1時間以上待ってんのに茶の一杯くらい出せよホント。



「ただいま~」

「あ、お帰りなさい」



ウォンバットと似たり寄ったりな背丈の女性が入って来て、そこへさも当たり前の様に言葉を返す天才少年。
やっぱりそうか、ガキンチョゲストハウスあるあるだな。
卒業旅行やワーホリ体験で味わった刺激が忘れられず、帰国したら旅の経験を活かしてゲストハウスを開業したいっていう麻疹に似た感染症。
そんな流行り病にしっかり感染するも、帰国してからは定職に就くタイミングも適応力にも欠けており、地方での短期職やバイトを転々とし、そこで出会った地元民の素敵な笑顔に触れ、「このままこっちに移住しちゃえばー?」というリップサービスを真に受け、都会じゃ全く話にならない女という武器を最大限に発揮し、地域振興という訳の分からん余計な御世話の旗を振り回し、しまいにゃクラウドファンディングで他人の金をかき集め、蜂の子サイズの脳ミソしか持ってないガテン系を褒め上げてリフォームにこぎ着けるのだろう。



が、世の中そんなに甘くないわな。