「うわ~マジか……てかもう赤んとこ切ってるやん…」
さっきまでの勝者感は昔の話、今はただただ己のミスを恨むばかりだ。
こういう峠道を走る場合、ガソリンが半分辺りになったら満タンにしておくのは常識中の常識。何なら携行缶でも持っておくべきなのだが、今回はそれさえも忘れている。
そのうち自分の性癖さえ忘れてしまうんじゃないだろうか?それが一番怖い。
(ん~~っと、ここから最寄りのスタンドは……アカン、10kmくらい離れてるわ。なんぼ燃費のいいコイツでも10kmは無理やな。となるとやっぱり、通りがかりの車かバイクを呼び止めて……いやいや、あのカフェみたいなとこを過ぎて以来、すれ違ったのって鹿くらいしかいいひんかったし、それに元々通行止めやし通る訳無いやんか!……てか、最悪の場合はサンタクロースのふりして鹿にバイク引かせるか……いやオレ馬鹿なんかマジで)
追い詰められた人間というのは、どうしてこうも無力なのか?
窮鼠猫を噛むという諺があるが、旅に出ていきなり最大のピンチを迎えたというのに童話並の対処法しか思い付かん。
つーか、徳島の山奥って確か熊出るんじゃなかったっけ??
(下手したら野宿……いや、凍え死ぬな。薪の代わりになりそうな枝とか全部濡れてるし……熊……熊!?熊なんか出た日にゃメキシコ人の真似したって回避出来ひんやん!小6の時に通信教育で習った蛇拳なんかで倒せる相手とちゃうし!あーもーどうするよオレ!)
………あ!
そっか!
ここから先は下り坂だったわwww
なんでこんな単純な事に気が付かなかったのか?
うん、やっぱり睡眠不足+焦り+老化による脳の収縮って怖いね。
ダメな一休でも普通に思い付くぞこれくらい。
(ヒャッホーイ!エンジン切っててもブレーキ要るくらいめっちゃ走るやん!あ~あ、考え過ぎて損したわ。ま、このまま平地になるとこまで行けりゃあ、後は残りのガソリンだけで充分足りるやろ。ヨシ!これで気兼ね無く一人カラオケ大会に没頭出来るわ。ジュディ・オングは辛気臭いし、ここは一発ど根性ガエルのエンディングテーマでも…)
そんな下らない事を考えていてふと感じたのだが、誰も通ってない山道を惰性で下ってる時って音が無さすぎて怖いのな。
つか、途中にあるトンネルなんかノミで掘った洞窟みたいなヤツで、見た目は死んだ婆ちゃんの肛門みたいなビジュアルしてるし無条件に霊感働くからやめてくれっつーの。
しまいにゃ役に立たん五獣の拳で川魚イジメるぞ、しかも禁漁区でっ!