「マジかー！！頼むし絵に描いた様なネタ止めてくれや！第一、こんな苦しいネタ要らんっつーのっ！！」
438号線が193号線と交わる辺りの、昭和感溢れる木造の町並み。
思わず、「ええとこやなあ…」とほっこりしたのも束の間。ここまで来て引き返してたら、高知に着くの絶対真夜中になるやんか！
(う～ん…どうするべきか…いや、どうしようもねえよな実際。てか何で通行止めなんやろ？)
まだ２月中旬とは言え、春の陽気さえ感じる様な天気なのに、まさか積雪という理由じゃあるまい。
いや、ここはそうでも更に上の方は、思ってるより凍結してるとか？
で、よくよく周りを見てみると、やっぱり『凍結により』みたいな表示の看板が立て掛けてあった。
(やっぱり凍結か……いや、そりゃここ最近雪の日が続いたとかなら分かるけど、天気予報見てもずっと晴マーク付いてたはずなんやけどな～…………もしかしたら、この看板取り外すの忘れてるだけなんとちゃうやろか？田舎の人間ってそんなとこあるし、あ、そろそろ外しとかなアカンがな、みたいな事もあるやろうし……)
暫く続く自問自答。
が、はっきり言ってここでウダウダしている時間は全く無い。
ここで引き返すなら、予約してあるゲストハウスは満額のキャンセル料を払って断念する他無い。
ま、それでもたかだか2000円だから構わないんだけど………いーーやっ！2000円をバカにする奴は貯金200万以下のクズばっかりじゃ！無駄金は一切落とすなを人生の教訓として必ず辿り着く！よっしゃあ！イチかバチかの大勝負じゃい(←そんなに大した勝負なんか)！！
通行止めの看板を無視して、橋の向こうの細い坂道をゆるゆる登って行く。
うん、まだ視界に入る景色では冠雪した形跡すら無いな。ただ、やっぱり日陰に入ると急激に気温が下がるのが気になる……。
「あの～、ちょっとお伺いしたいんですが」
イチかバチかの大勝負を固く心に誓ったはずのオレだが、ここからいよいよ急カーブが連続する山道に突入するという所で、新たに通行止めの看板とぶち当たる。
場所は下宮神社とかいうジモティーか物好きライダーくらいしか知らない様な所で、そこに停車していた4駆のオフ車に乗っていた兄ちゃんが丁度小便から戻ってきたとこらしく、ジーパンに新鮮な尿漏れ痕を残した状態で現れたのである。
「すんませんが、もしかしたらこの先からこっち側に来られました？」
「あー、いえ、僕もこれから行こうと思って香川から来たんですけど、ちょっとどうしようか迷ってたとこなんです」
「あー、そうだったんですか……やっぱり無理ですかねぇ。更にこんな原付じゃ」
「いやー、どうなんでしょ？凍結してなかったら、林道以外は舗装されてるんで大丈夫だと思いますけどね。崖崩れだとアウトですよね、ハハハッ」
そう言って軽く笑う兄ちゃんに軽くイラッとし、反射的に尿漏れ痕を指摘してやろうかと思ったが止めといた。
まあ小便垂れの言う事に一切の間違いは無く、簡単に「大丈夫だと思いますよー」とは言えないのが冬の山道だ。
でもな小便垂れ、オマエのジーパン、さっきより尿漏れ筋が結構下に延びとるぞ。一体どんだけ漏らしたらそこまで延びるんや？泌尿器科行け。
意を決して突き進む事にしたオレだったが、細い山道には小石やら岩やらが点々と落ちている。
が、濃霧という強敵は一切現れないどころか、天気だけは心配無い様だ。
雲早トンネルという短いトンネル付近には、カフェだかライダーハウスだか分からない店も営業しており、店の前には数台のバイクが停まっている。
これなら何とかなるだろう、やっぱり慣れてる人達は看板なんかあんまり信用してないのかな？
でも確かに気温は急激に下がってきてるし、もしさっきの小便垂れがバイク乗りならジーパン凍っとるぞ。
車で良かったな、おもらし刑事。
「おっ、ここが展望台……て事は、一応峠は越えたって事か！うおっしゃああああっ！！賭けに勝ったぞーーっ！！」
暫く走った曲がり角に出てきた展望台。
そこにあった撮影スポットの表示を見て、ここから先は下り坂に入る事を確信するオレ。
て事は、もうこの先に凍結した場所は無いんだろうと一安心。
いやー、正直マジで冷や冷やしてたけど良かったわ。せっかくやし、一服がてらちょっと休憩して行くか。
「うん！勝者確定のタバコは最高に旨いな。自販機でもあったら缶コーヒーの大人買いでもしてやるとこやけど、まさかこんなとこに電源あるわけないしな。よ～しっ、後は一人カラオケ状態でジュディ・オングでも熱唱しながらのんびり行くかー！ウハッハッハッハッハッ！！……………ん？………ち、ちょ、いやオイ待て！笑っとる場合ちゃうやないかい！！」
勝者感満喫状態でエンジンを掛け、スマホのナビでこの先にある食堂までの距離なんかを検索していた時だった……。
やべーガソリンほとんどねーわ