-ネビュラの螺旋-


錆びついた鉄塔。海のように広がる砂漠。そんな殺風景な外の景色を見下ろす二人。煙草をぐわえた初老の男。軍服の少年。 

「我が帝国の前身国に戦後最大規模のカルト教団が存在した。表向きの活動は神への祈り、真理の探究、苦の解決。だが、裏では誘拐、人体実験、武装化などの黒い噂が囁かれていた。教団の活動拠点周辺で短期間に行方不明者が続出。以前から怪しまれていた教団施設へ強制捜査が行われた。証拠を押さえられ、教祖である男と幹部数名が逮捕された。それで教団も解散し、国への脅威となる前に事は解決できたかのように思われた」

 灰皿に煙草を置き、また新しい煙草に火をつける。 

少年はただまっすぐ窓の外を見ていた。男は煙草を一口吸うと、 再び話し始める。

「教祖の死刑が発表された次の日、教徒達は蜂起した。当時の大統領を拉致し犯行声明を出した。要求は教祖と幹部の開放、教団の亡命、以降教団へ一切関与しないこと。国は要求を飲んだ。それから数十年の間教団は表の歴史に登場しなかったが、とある国が教団と秘密裏に接触、教団が行っていた人体実験、生物兵器、化学兵器等、大国の軍事力、技術をも凌ぐ力を手中に収めるために手を組んだ。その国の当時の女王が、後の大魔女だ。人ならざる力で、小国から一気に世界を掌握できるほどの大国へ変貌した。 我が帝国と戦争になるまで時間はかからなかった。軍隊を持たない国を除いて、世界の勢力は二分された。東西戦争、100年前の大戦だ。数年に及んだ戦争でこの量の半分は壊滅状態になり、 今も完全に復興していない」

「もしも......なんて話に意味はないですが、教団の亡命を許さず、 教祖たちの死刑が執行されていたらこの荒廃した世界はなかったのでしょうね」 

元々教団が生まれたのもこの国だ。この国が生んだ罪の一つと言えなくもない」

目の前の景色に、あったかもしれない世界を想像してみる。 それは昔読んだ小説に出てくる街。観覧車、遊具施設、映画館、 遊戯場、繁華街。そんな夢のような街。