先日、60代の女性がうつ病の疑いということで紹介されてきた。しかし、よくよく話を聞いてみると神経症の対人恐怖(社会不安障害)だとわかった。小心・内向的・取越苦労しやすい性格で、若い頃から対人恐怖のため人と接することを極力避けてきた人である。子供さんが学校に行っている頃は、PTAの役は全て断り、授業参観だけは仕方なく出ていたという。症状が悪化したのは、御主人が定年退職してからである。買物に出かけて知っている人に話しかけられるのが嫌だということで、優しい御主人がすべて買物などの用事を足してくれるようになったところ、ますます外出することが不安でできなくなってしまった。ところが、近々、親戚の結婚式の予定が入り、さらに自分の息子さんが結婚相手を自宅に連れて挨拶に来る予定も入り、それらのことを考えると心配で恐ろしく、食欲も落ち、夜も眠れなくなって、一見うつ病ではないか、という状況になっていたのである。すでに他院で処方されていたSSRIのパキシルは、うつ病だけでなく社会不安障害にも有効とされているので、それを継続するとともに、神経症となるメカニズムを説明した。そして不安ながらもそれを避けずに少しでも外へ出て行くこと自体が治療になる、と話した。さらに神経質な性格は悪いことではなく、それを生かしていけば良い、ということも忘れずに付け加えておいた。