先週火曜日の夜、たまたまTVをつけてチャンネルを回していたら、「たけしの本当は怖い家庭の医学」で不眠症をやっていた。ゲストの中にドラマ水戸黄門の「うっかり八兵衛」役を長年演じている高橋元太郎さんがいた。役の上ではひょうきん者で失敗ばかりしているのであるが、実際の高橋さんはまじめで几帳面であり神経質のようだ。撮影で遅刻してことは一度もない「しっかり八兵衛」と御自分で言っておられた。悪役専門の俳優さんが実生活では人への思いやりが深く気配り上手のとてもいい人だったり、ヒーロー役の俳優さんが実生活では問題ばかり起こしていたり、と役柄と本来のキャラクターが一致しないことはしばしばあって面白い。高橋さんは不眠に長いこと悩み、「羊が1匹、羊が2匹・・・」と数えていても眠れなくて困るという。今では活動量を記録する小さな器具があるので、ゲストたちがそれを体に付けて解析されて、やはり不眠症と診断された。眠れなかったらどうしようという不眠へのこだわり、いわば不眠恐怖が原因であり、神経症性不眠ということもできよう。




 森田正馬先生の治療を受けた人たちの集まりである形外会の会長をしていた香取さんという貿易商は、当時の脳科学者の「眠らないと脳の重量が少しずつ減少して死ぬ」という説を聞いて恐ろしくなり、大磯に別荘を建てて温度や湿度を適度に保てる特別室を作ったが、不眠は改善しなかった。まだエアコンのない昭和初期のことであるから大変な出費だっただろう。散歩が不眠によいと言われて、毎日天候にかかわらず長時間散歩してもダメだった。舟を漕ぐとよいと言われて大波の日でも漕ぎに出たが効果がなかった。結局、森田先生の本を読んで一晩で治ったという。つまり「眠るために・・・する」ということをしているうちは不眠が続くのである。眠ろうとする努力を忘れた時、不眠症は治っているのである。