まず、本当に食べすぎていないのか?という問題がある。「それほど食べていないという人の多くが、実は“自分にとっての食べすぎ”に気づいていない」。こう話すのは、ダイエットに詳しい眞健堂薬局の薬剤師、上原兼治さん。

 上原さんによると、結果的に“食べすぎ”に陥る主なパターンは、次の四つ。
(1)食事の中身に占める脂肪の割合が増えた。
(2)食事の回数を減らした。
(3)活動量が減った。
(4)基礎代謝が下がった。

 これらはすべて、食べる量が増えていなくても体を太る方向に持っていく要因だ。しかも自分ではそれと気づきにくい。

 女性の摂取カロリーは確かに減っている。30代女性では1700kcalを切っている(左下グラフ)。ただしその中身は、摂取カロリーの25%以上を脂肪でとっている人が半数以上。問題はその種類だ。

女性の1日の摂取カロリーは年々減少傾向。20~39歳女性は1700kcalを切っている。そのうち脂肪の占める割合が25%以上の人は半数以上いる。脂肪の質に問題があるケースも多い。「たいして食べていないのに太る」という女性は、このあたりを見直す必要がありそうだ。
BMI「25」以上の肥満女性の割合は、どの年代でも近年、減少傾向だが、30代女性だけは10年前よりやや増えている。30代女性だけがなぜ?――という疑問を解くカギが下のデータ。摂取カロリーは多くなくても、それ以上に体を動かす機会が減っているために、少ないカロリーさえも代謝できない体になっているのだ。30代女性で運動する習慣をもっている人は14%と、どの年代と比べても低い。1日の平均歩数も6992歩で、これは60代女性並み。8割以上が運動していないのだから太る人が増えて当然かも……。
(データ:厚生労働省「平成17年度国民健康・栄養調査」より) 「女性はバターやクリームに含まれる悪玉脂肪、飽和脂肪酸を過剰摂取している場合が多い」と順天堂大学大学院准教授の青木晃さんは指摘する。青木さんの調査では、ダイエット外来を受診した20~30代女性の食生活は、コンビニ食やファストフード、インスタント食品が多い、野菜や果物の摂取が不足している、米飯をあまり食べない、魚をほとんどとらない──という特徴があった。「同じ油でも魚に含まれる不飽和脂肪酸はサラサラしていて体につきにくい。要は摂取する油の種類が問題」と青木さん。

 次に、ダイエット目的で食事の回数を減らすことの害は二つある。まず「食べないと、食事によって発生する熱の産生が減って、総消費カロリーが低下する。食事の熱産生は、1日の消費カロリーの10%を占めるのでバカにならない」(上原さん)。

 もう一つは、食事を抜くとお腹がすいて動きが鈍くなってしまうこと。それが続くと筋肉が落ちて基礎代謝も下がってくる。

 30代女性はもともと運動する習慣を持っている人が少ない(右グラフ)。そのうえに日ごろの身体活動量まで減らしては、少ない摂取カロリーさえも代謝できない体になってしまうわけだ。

太りやすい体になる三つの要素

運動不足で消費エネルギーと代謝力が低下30代女性は圧倒的に運動不足。運動しないと筋力が低下するうえに脂肪がつきやすくなり、代謝力はどんどん落ちる。

睡眠不足で食欲調節ホルモンが乱れる
睡眠不足は食欲ホルモンを増やし満腹ホルモンを減らす。その結果、食べても食べても満足できず、さらに食べてしまう。

自律神経のアンバランスで脂肪が燃えない
不活発で便利な生活に安住していると、交感神経の働きが鈍くなって体脂肪を燃やすマキに火がつかなくなる。

睡眠不足で食欲が増し
太っていく現代人

 食事や運動だけではない。実は睡眠も肥満に深く関係していることが近年、わかってきた。ここでカギを握るのが、食欲を調整する二つのホルモン、グレリンとレプチンだ。

 グレリンはお腹がすいたとき胃から分泌されるホルモン。脳の食欲中枢を刺激して食欲を感じさせる作用がある。一方、レプチンは脂肪細胞から分泌され、脳の満腹中枢を刺激して食欲を抑える働きをもつ。つまり食欲はグレリンとレプチンがシーソーのようにバランスをとることで調整されている。

30~60歳の男女1024人で、血液中の食欲調整ホルモンの値と平均睡眠時間、体格指数(BMI)との関係を分析。その結果、睡眠時間が短いほど食欲ホルモンのグレリンが高い一方、満腹ホルモンのレプチンが低く、BMIが高かった。
(データ:PLoSMed;1(3):e62,2004より改変) ところが、睡眠不足になると、「グレリンが増えて食欲が増す一方、レプチンが減って満腹を感じにくくなる」と宮崎大学医学部教授の中里雅光さんは話す。寝不足した翌日、やたらと食べ物に手が伸びてしまう陰にはこんな体の仕組みがあったわけだ。

 実際、米国の研究では日ごろの睡眠時間が短い人ほどグレリンが多くてレプチンが少なく、太っていることが確かめられている(右グラフ)。

 睡眠不足は寝ている間に分泌される成長ホルモンを抑制して、脂肪の分解や筋肉・骨の形成といった体の代謝も悪くする。これまでの研究では少なくとも7時間、できれば8時間眠った方がいいようだ。

 しかし、平成18年度社会基本調査(総務省)によると、30代女性の75%以上が平均睡眠時間7時間未満、38%が6時間を切っている。

 コンビニ通いで質の悪い油をとり、睡眠不足。しかも体はあまり動かさない。そんな生活は自律神経の働きも悪くする。

しっかり寝ないと食欲が増して太りやすくなる!

 睡眠時間を十分とることが実は肥満予防に重要な役割を果たすことが近年わかってきた。その証拠の一つが、日ごろの睡眠時間と、食欲を調整する二つのホルモン、グレリン、レプチンの血液中の濃度を調べた下の研究。日ごろから5時間しか寝ていない人は8時間の人に比べて、グレリンが15.5%多い一方、レプチンは14.9%低かった。つまり短時間睡眠の人は食欲が増す一方、満腹を感じにくくなっているというわけ。その結果、睡眠時間が短いほどBMIが高いことも確かめられている。

 女性6万人を16年間追跡した別の研究でも、睡眠時間が短いほど体重増が大きかったと報告されている。

 グレリンの過剰とレプチンの低下は一晩寝不足しただけでも起こる。それが習慣化すると食べても食べても満足できない体になっていく。短眠生活は早めに改善しよう。太りにくい体づくりの基本はしっかり眠ることなのだ。

自律神経が弱って脂肪を燃やせない体に

 「体脂肪の燃焼には交感神経の活性化が必須だが、現代女性はこの働きが弱い」(青木さん)。交感神経とシーソーの関係にある副交感神経は食事や睡眠で活性化されるが、太っている人ではこちらも弱っているという。

 自律神経を鍛える方法として最も実行しやすいのは運動だ。「運動している最中は交感神経が活性化され、運動後はその反動で副交感神経が活性化される」(中里さん)。運動は単に消費カロリーを上げるだけではない効果があるわけだ。

この人に聞きました上原 兼治 代表
眞健堂薬局・薬剤師
「女性ホルモンのエストロゲンは食欲を抑制しますが、これが効かない月経前の炭水化物渇望はあめ玉でしのぐのが手です」青木 晃 准教授
順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座
「昼夜逆転の生活は自律神経の働きを悪くします。寒いときは鳥肌を立て暑いときは汗をかいて自律神経を使う心がけを」中里 雅光 教授
宮崎大学医学部神経・呼吸器・内分泌・代謝内科学講座
「動物は必要量しか食べませんが、人はおごられると余計に食べたりと“脳で食べる”部分が多い分、食欲の調整が難しいのです」