パニック障害の度重なる発作に苦しみながらも、女優の大場久美子さん(49)は舞台やテレビの仕事を休まずこなした。


 人に迷惑をかけるのが嫌で、デビューの時から「仕事は休まない」と肝に銘じてきた。強い責任感が仕事中の発作を抑え込んだのかもしれない。


 だが、仕事の行き帰りや買い物の途中などに、繰り返し発作に見舞われた。一度発作が起きた場所では「また起こるのでは」と不安に駆られ、「今倒れたら周囲に迷惑を掛ける」と焦り、心臓の鼓動や息苦しさが増していく。「予期不安」と呼ばれる状態だった。


 大場さんは「昔からあっさりした性格で、嫌なことは寝ると忘れてしまう」という。だが、中学生で芸能界に入り、自分を抑えて働き続けたストレスが積み重なり、「母の死をきっかけに、心の傷が開いたのかもしれない」と思う。


 6年前、知人に紹介された心療内科でパニック障害と診断された。「私だけがおかしいのではなく、病気のためだと分かって肩の荷が下りました」。薬は飲めないままだったが、ヨガや体操など、この病気に効果があると聞いた健康法は、すぐに試すようになった。


 予期不安を克服するきっかけは、知人が講師を務める体操教室だった。知人や受講生に「途中で倒れるかもしれない」と打ち明けると不安が消えた。周囲に病気を理解してもらう大切さを実感した。


 電車に乗る時は、友人に協力してもらい、携帯電話のメールを送り続けるようにした。集中していると、電車に乗っていることを忘れる。遠回りになっても、発作が起きた場所を避けて歩くようにしたことも、発作の抑制につながった。


 以前は、嫌なことを嫌と言えず、「言っても何も解決しない。口にするのはわがまま」と自分を納得させていた。それが言えるようになった。

 「絵に描いたような完璧(かんぺき)な大人になるのをあきらめてから、すごく楽になりました」と笑う。


 3年前、一時的に発作が再発したが、現在は治まり、今春、闘病記「やっと。やっと! パニック障害からぬけ出せそう…」(主婦と生活社)を出版した。


 「陰のある表情がいい」。それが、18歳の大場さんがテレビドラマ「コメットさん」の主役に選ばれた理由だった。選考会で歌を失敗し、自然に出た悲しげな表情が評価されたのだ。


 「人生に捨てる所はなく、マイナスがプラスになることもあるんですね。これからは、パニック障害の社会的理解を深める活動に取り組み、闘病経験をプラスに変えていきたい」