「あしあと」



 ある夜、わたしは夢を見た。

 わたしは、主とともに、なぎさを歩いていた。

 暗い夜空に、これまでのわたしの人生が映し出された。

 どの光景にも、砂の上にふたりのあしあとが残されていた。

 ひとつはわたしのあしあと、もう一つは主のあしあとであった。


 これまでの人生の最後の光景が映し出されたとき、

 わたしは、砂の上のあしあとに目を留めた。

 そこには一つのあしあとしかなかった。

 わたしの人生でいちばんつらく、悲しい時だった。


 このことがいつもわたしの心を乱していたので、

 わたしはその悩みについて主にお尋ねした。

 「主よ。わたしがあなたに従うと決心したとき、

  あなたは、すべての道において、わたしとともに歩み、

  わたしと語り合ってくださると約束されました。

  それなのに、わたしの人生のいちばんつらい時、

  ひとりのあしあとしかなかったのです。

  いちばんあなたを必要としたときに、

  あなたが、なぜ、わたしを捨てられたのか、

  わたしにはわかりません。」


 主は、ささやかれた。

 「わたしの大切な子よ。

  わたしは、あなたを愛している。あなたを決して捨てたりはしない。

  ましてや、苦しみや試みの時に。

  あしあとがひとつだったとき、

  わたしはあなたを背負って歩いていた。」









 「太陽のほとり」



   詩 : 石垣 りん




 太陽

 天に掘られた 光の井戸。




 私たち

 宇宙の片隅で 輪になって

 たったひとつの 井戸を囲んで

 暮らします。




 世界中 どこにいても

 太陽のほとり。




 みんな いちにち まいにち

 汲み上げる

 深い空の底から

 長い歴史の奥から

 汲んでも 汲んでも 光

 天の井戸。




 (日本の里には 元日に 若水を汲む

  という 美しい言葉が ありました)




 昔ながらの

 つるべの音が 聞こえます。




 胸に手を当てて 聞きましょう

 生きている いのちの鼓動

 若水を汲み上げる その音を。




 新年の光

 満ち あふれる 朝です。