アメリカのミステリー作家

ジャック・カーリイの長編小説。―――

衝撃の真相が読者を直撃するサスペンス・スリラーです。

アラバマ州モビール市警の刑事カーソン・ライダーは、

ニューヨーク市警からの緊急要請により同市に赴く。

やがて彼は無残に切り裂かれた女性の死体と対面。―――

カーソンも知るその被害者はある矯正施設の責任者で、

生前に彼に対するビデオメッセージを残していた・・・。

そのメッセージのなかには、

カーソンに連絡して欲しいこと。

彼が殺人的傾向にあるサイコパスを理解する

第一人者であることが記録されていた。

実は彼の兄ジェレミーは被害者が管理する施設に

収監されている連続殺人犯。―――

ところが彼と思われる人物が、

被害者を写していた防犯カメラに記録されていた。

兄はニューヨークにいる。―――

そう察したカーソンは、命がけのマンハントを

覚悟するが、はたして・・・。

主人公のカーソンは正義感が強く

行動力にもたけた刑事。―――

また犯罪心理学への造詣も深く、仕事を通じて

被害者からの信頼にも厚いものがありました。

その一方で彼の兄ジェレミーは少年時に虐待を

受けていた父親を、弟であるカーソンに

その矛先が向かうのを防ぐために殺害。―――

その後女性を狙った殺人事件の犯人とされて

施設に服役していました。

彼はいったいどのようにして施設を脱獄し

ニューヨークに現れたのか。―――

なぜ被害者と一緒にいたのか・・・。

またその後別の女性を襲った殺人事件も、

同じニューヨーク市内で次々と発生。―――

謎が謎を呼ぶ展開のなかでカーソンはニューヨーク市警に

協力して彼を追い詰めようとします。

とは言え二人は互いに手の内を

知り尽くしている兄弟同士。―――

はたして彼はジェレミーを確保することができるのか。

この二人の対決が本書随一の読みどころとなっています。

加えて本格推理小説の味付けが濃いところも

本書の魅力を高めています。

縦横に張り巡らせた伏線。

精緻なプロット。

終盤何度も炸裂するどんでん返しの数々。―――

どうやら作者はその根っこに

パズラーとしての深い思い入れがあるようです（？）。

ところで本書では女性を狙った連続殺人事件と

関連するかのように、女性の大統領候補に対する

選挙妨害事件が並行して語られます。

やがて彼女を標的にした嫌がらせはエスカレート。―――

候補者の事務所に不気味な人形が何度も送り付けられます。

ところが物語の最終盤にこの二つの事件が

衝撃的にオーバーラップ。―――

物語は圧倒的なクライマックスを迎えます。

本書を読み終えた読者はやがて強烈な

サスペンスの裏に隠された、

作者による精巧な仕掛けに

脱帽してしまうハズ。―――

もしかしたら本書は本格推理ファンも驚くこと

請け負いの一冊かも知れません（？）。

令和６年4月26日　読了　B　（文春文庫）

ジャック・カーリイ「ブラッド・ブラザー」

その人形はロシアならどこにでもある入れ子式の人形・マト

リョーシカだった。カーソンはまるでマンガのような人形の

顔を見つめた。カーソンは疑問を口に出す。「どうして口が

ないんだろう？」。あきらかに、何者かが女性大統領候補の

声を奪おうとしているようだ・・・。

「ブラッド・ブラザー」（ジャック・カーリイ）