中学卒業間近だった。

「さくらー卒業したら髪染めるっしょ?」
「うん!何色にしようか悩み中ー。彩加は?」
「染める染めるっ!てか高校楽しみだねー!かっこいい先輩とかいるかなぁ?」
「あははっ彩加はホントにいつも恋愛してるねー」
「うん!だって楽しいもん!」



いいなぁ…
あたしも楽しみたいな…
何にも楽しくないよ。
家も学校も、こんな中身の無い会話も。



ごめんね、こんな奴で。
日々が憂鬱でたまらなかった。

母が言った。
「産まなければ良かった。」
親不幸者
恥さらし
いつになったら家を出るの?
ごめんなさい。私の育て方がいけなかったのね。


あたしは言う。
生れなければ良かった。
産んでくださいなんて頼んでない。
こんな家出てやる。




父は泣き喚くあたしをじっと見て、そして容赦なく手をあげた。
顔に、腹に。
時には、胸ぐらを掴んで言った。
「一家の恥を曝した罪を償え。」
「どうやって?」
「死ね。死んで詫びろ。昔は切腹をしたんだ。おまえもそうしろ。」
彼はそう言って包丁を差し出した。


孤独だった。

仲間と戯れて、万引き、窃盗、そんなことをしても心が満たされるはずがなかった。



「1番を獲れ。出来そこないになるな。」
父の言葉が頭を過ぎる。


どうせ、もうあたしは出来損ないだし…



勉強なんかしなかった。
なんでも良かった。

あー
死んでしまいたい。
高校なんて、行きたくないし…
なんで受かったんだろう。



「別に高校なんて行かなくていいのよ。あんたが落ちこぼれになっても家には他にも2人も娘が居るんだから」
「あんたに期待なんてしてないから。」



そうだよね…
どうせ、あたしだし…


でも、じゃなかったら何処に行けばいいの?
行く場所もないんだ。
適当に彼氏を作って、転がり込む?
それも出来ない…
出来損ないの人形のくせに、可愛いお飾りにもなれないなんて…
どうしようもないな…

自分が哀れに思えて、笑いそうになる。


未来なんて見えない。
考えられない。



だから、今、死んでもきっと痛くないと思うんだ。
誰も。
あたしも。
蒼く澄み渡った空。
あの日は薄紅色の粉雪が舞ってたね。

楽しそうな笑い声
川のせせらぎに、光る水面

君は言った。
「綺麗だね」

あたしは言う。
「うん。」
「そんな浮かない顔しないで。笑ってた方が可愛いよ。」
「笑えない…」
「ねぇ、さくら、俺はいつでもさくらの味方だよ。」
「ありがとう…。涼はいつも優しいね…。」



風が吹いた。
桜の花弁が踊る。

そして彼のこげ茶色の髪に絡まる。

「涼ー髪に付いた。」
あたしは彼の髪に手を伸ばす。
彼は身を屈た。


「待って。んー…」



また、風が吹く。




それから突然のキス。


「さくら、愛してるよ。」



あの瞬間、世界が色付いた。



目を綴じると昨日の事のように蘇る。





あの日に帰りたい。



神様、1日でいいから彼を還して。